3千万円、1億円超の高額な新薬 問われる費用対効果と医師の悩み
医療経済学・医療政策研究者の二木立氏(日本福祉大学名誉教授)は、國頭氏の主張には二つの誤りがあったと語る。 「一つは薬価が高いままで変わらないという前提で、将来予測値を割り出していたこと。実際の薬価は医療政策に合わせて変化し、価格を下げるなど適正化していくものです。もう一つの誤りは、その時点で薬剤の適応対象になっていたがん患者さん全員がオプジーボを使うと仮定したこと。高額な薬剤は、むやみに処方できないよう、適切に使用できると判断される患者の条件や病院などを記したガイドラインが出されています。全員に使えるわけではないのです」 ただし、國頭氏の発言が「ショック療法」となったことは二木氏は評価している。オプジーボを含めた高額薬剤の費用抑制策の議論が急速に進んだからだ。 2016年の通常国会で高い薬価が指摘され、中央社会保険医療協議会(中医協)において緊急措置として翌年からオプジーボの価格が半分に下げられることになった。その後、従来は2年に1回だった薬価改定を毎年行う仕組みもつくられた。さらに、市場規模が拡大したものや効能追加が承認されたものは年4回見直す。そのため、オプジーボのような高額薬剤で「国が滅ぶ」ようなことは起きないと二木氏は言う。 「今ある仕組みを使って『適正な値付け』と『適正な薬の利用』を進めていけば、薬剤が高額化しても、国民皆保険制度は守っていけます」 だとするなら、薬価問題のポイントは「適正な値付け」と「適正な薬の利用」となるが、具体的にどういうことなのか。
価格大幅減でも二つの高額薬剤は売上増
そもそも、新しい薬剤は安全性や有効性を厚生労働省所管の機関で審査される。そこで承認されたものが、厚生労働大臣の諮問機関である中医協の薬価算定組織によって価格が審議され、薬価専門部会で薬価が決まる。類似薬のない新しい医薬品の薬価には製薬会社の開発コストなどが反映されて申請されるが、申請がすべて通るものでもなく、中医協での議論が重要になる。 国民医療費は、2010年度の37兆4202億円から10年間で約16.5%増え、2019年度は43兆6000億円(概算医療費)となった。医療経済研究機構の試算によると、2019年度の医療用医薬品費の総額は約10兆6300億円で、国民医療費の24.3%を占める。