歴代政権の「パンドラの箱」 日米地位協定の改定、沖縄で交錯する期待と疑心
環境汚染、騒音被害も
地位協定が問題になるのは米軍機事故の捜査だけではない。全国の米軍専用施設面積の7割を抱える沖縄県では、基地周辺の環境汚染や騒音被害など複数の問題で地位協定が解決を阻む要因になっている。 例えば、沖縄本島の米軍嘉手納基地や普天間飛行場周辺の河川などから発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)が高濃度で検出されている問題。汚染源の究明には基地内の土壌の状況などを調べる必要があるが、基地の管理権は米軍にあると定めた地位協定が壁となって立ちはだかる。沖縄県は16年以降、基地への立ち入り調査を繰り返し申請してきたが、米軍が調査を認めないため原因は分からないまま環境汚染は続いている。 米軍飛行場周辺の騒音被害も深刻だ。嘉手納基地では今月6日にも午前3時過ぎからF16戦闘機が計12機、次々と離陸。周辺の住宅街では約2時間にわたって断続的に爆音が響いた。米軍機は深夜や未明に飛行することも多いが、日本では米軍機の運用は米軍に任され、地位協定にそのあり方を定めた規定はない。日本の航空法令では飛行高度なども定められているが、米軍機は「適用外」だ。
他国は国内法令を原則適用
こうした状況は、米軍が駐留する他国でも同じなのか。 沖縄県は17~22年度、ドイツやイタリア、フィリピン、韓国など7カ国に職員を派遣して、駐留軍に関する地位協定や基地の運用状況などを調査した。 調査報告書によると、ドイツやベルギーなどでは行政当局による米軍基地への立ち入り権が保障され、イタリアと英国ではそれぞれの軍の司令官が米軍の基地に常駐していた。また、大半の国が航空規則などの国内法令を米軍にも原則適用していた。 米軍機による重大事故が起きた場合、イタリアや英国では、現地の捜査当局がフライトレコーダーを押収するなど主体的に捜査していた。事故を機に地位協定を改定したり、飛行訓練の高度や時間の規制を強化したりした例もあった。調査を担当した県職員は「どの国も、受け入れ国の法律が米軍に適用されるのは当然だという認識のようだった」と話す。 これに対し、日本の外務省は現状の日米地位協定について「外国軍隊の扱いに関する国際的慣行からみても均衡のとれたものだ」との見解を貫く。