歴代政権の「パンドラの箱」 日米地位協定の改定、沖縄で交錯する期待と疑心
日米地位協定改定議論、人権の視点を
那覇市で9月17日にあった自民党総裁選の演説会。9人の候補のうち唯一、日米地位協定の改定に言及したのが、石破茂氏だった。やや唐突に「(沖縄は)基地のご負担があります」と切り出すと、続けて「私は地位協定、(自民党)県連の皆さまとともに、これの見直しに着手を致します」と明言した。 「思い切ったな」。会場で取材していた私は気持ちが高ぶった。一方で、改定の目的について、国家主権の問題を強調している点が気になった。演説の持ち時間が1人10分しかなかったため、言葉足らずになったのかと思ったが、その後の記者会見や党首討論会の発言を聞いても、石破氏は肝心な点に触れていない。 それは人権の問題だ。もちろん主権の制約は極めて重要な問題だが、米軍基地が集中する沖縄では、地位協定に由来すると考えられる人権侵害が問われている。 沖縄国際大に墜落した米軍ヘリコプターが所属する普天間飛行場の周囲では、日米両政府が合意した航空機騒音規制措置によって、学校や病院を含む人口密集地上空の飛行や、午後10時~午前6時の夜間飛行が規制されている。しかし、その合意文書にある「できる限り」や「最大限の努力」といった文言が抜け穴となり、実際には小学校上空や深夜・未明の飛行が横行している。2004年の大学へのヘリ墜落や17年の小学校校庭への窓落下などの事故はまさに起こるべくして起きた。 山本章子・琉球大准教授は、そもそも地位協定に在日米軍の飛行訓練に関する規定がないことが問題だとし、事故や騒音を防ぐためには「米軍の自主努力に委ねるのではなく、地位協定に訓練に関する規定を設けなければいけない」とも指摘する。基地周辺の住民が求めているのは、こうした命や人権を守るための改定だ。 石破氏は地位協定改定の前提として沖縄の重い基地負担に触れた。問題の所在は認識していると思う。野党側は改定の目的や内容について、人権の観点からもっと切り込んでほしい。
※この記事は、毎日新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。