小児がんで娘を亡くし「どう生きていけば」…喪失感の中、見つけた生きがいは菓子作りだった 「同じ患者たちの支援に」売り上げを寄付し、絵本を出版。母は子を想い今日もシフォンケーキを焼く
いつものようにケーキを焼いていたある日、ふと絵本制作を思い立った。「自分がいなくなった後も小児がん支援の輪を広めたい」。制作費用を集めようとクラウドファンディングを2024年5月から始めた。設定した締め切り日は、娘が生きていれば21歳を迎えるはずだった6月25日。目標額の100万円の2倍超に当たる230万8千円が集まった。 家族の体験を基に作成した絵本のタイトルは「シフォンケーキのしふぉんくん―ずっとそばにいるよ」。シフォンケーキから生まれたキャラクター「しふぉんくん」が主人公で、由香さんを見守るストーリーになっている。あとがきで、小児がんの子どもたちを支援したいとの思いや、ケーキ作りで少しずつ自分の気持ちが和らぎ、自身のグリーフケアにつながったことなどをつづった。巻末には、店に飾っているものと同じ、成長した歩佳さんが弟と一緒にシフォンケーキをほおばる絵を載せた。 絵本は9月20日に1000冊完成した。支援者に届けるほか、地元出版社を通じてオンラインでの販売も予定し、売り上げの一部はゴールドリボン・ネットワークに寄付するとしている。由香さんは「娘や私の人生を描いた絵本を残すことが、誰かの支援につながったらありがたい」とはにかみ、これからもシフォンケーキを焼き続ける。 ▽見えざる負担
国立成育医療研究センターの松本公一(まつもと・きみかず)・小児がんセンター長によると、小児がん治療の費用負担には「小児慢性特定疾病医療費助成制度」という名称の支援制度がある。ただ、ドナー適合者を見つけるための検査代だけでなく、遠方の病院に通う場合はその移動費や滞在費、また、患者にきょうだいがいれば、保護者が看病にかかりっきりになっている間の面倒を見てもらうための費用など、治療費以外の見えざる負担がかかるという。 ゴールドリボン・ネットワークでは、小児がん治療のための研究費助成や、入院治療に伴う交通費などの補助も設けている。同ネットワークの担当者は「より多くの人に、小児がんに関心を持ってもらいたい。また、当事者やその家族たちにも、多様な支援方法があることを伝えたい」と話している。