人口5万人の街に1万2000人が来場! 商工会議所発の音楽フェスが成功したワケ 街なか音楽祭「結いのおと」茨城県・結城市
結いプロジェクトの広がりから生まれた街の変化
「結いプロジェクト」の活動は、マルシェや音楽イベントにとどまりません。空き家を活用したシェアオフィス「yuinowa」、第一線で活躍する専門家による地方での仕事のつくり方を考えて学ぶ「むすぶしごとLAB.」など、次々と新たな事業や企画が生まれています。 さらに、「結城に来てもらっても泊まる場所がない」という課題感から、3年間の準備期間を経て23年11月には築90年の古民家を改修した宿泊施設「HOTEL(TEN)」をオープン。 「これまでは街と人を結ぶ場所をつくってきたので、次のフェーズとして結城に長く滞在できる場所をつくりました」(野口さん) 「結いプロジェクト」によって、結城市の日常に着実に変化が生まれているのです。 2013年には、昭和初期に酒造蔵元の別荘として建てられた古民家を活用した「御料理屋kokyu.」が生まれました。なんとオーナーは前年の「結い市」の出店者。結い市や結いのおとをきっかけに、他の地域からの移住者がやってくる環境が育まれています。 当初は地元の方から「結城市が開催するフェスなら、地元の出店者だけで固めてみては?」という意見もあったといいます。しかし、今や外からやってきた方々が街の担い手になりつつあります。 「結城市に移住したり、ビジネスチャレンジを始めたりする方が増えて最終的には『毎日が結い市』のようになる風景を思い描いていたので、現実になりつつあって感慨深いです。今は私たち以外にもマルシェを企画する人たちも出てきてくれたので、結いプロジェクトとしての結い市は2019年で一度終了し、今はシェアオフィスや宿の運営や『結いのおと』に集中しています」(野口さん) 商工会議所が主体となり、自治体を巻き込んでいる「結いプロジェクト」ですが、実は動員数や移住者数などの具体的な目標設定はしていないそうです。 「最初は『移住者を〇人増やす』といった数値目標を求められたこともありました。しかし、役場の人たちにも実際にイベントに関わってもらうことで、さまざまな繋がりができて、ようやく一人移住してくれるかどうかなんだと実感してもらえていると思います。現在『結いのおと』自体はコロナ以降なかなか黒字にはなりませんが、この活動がきっかけでこの街で商売を始める方も増えました。長い目で見て、このプロジェクトが街の活性化に繋がると信じています。 無理に地域おこしをするのではなく、自分たちのやりたいことと地域の課題解決がうまく重なったときに、活動は続いていく。これまでの歴史を大切にしながら、新しいことにチャレンジしたいという人が増えていったら嬉しいですね」(野口さん)
全国でも多くなった地域活性化を目的にした音楽フェスですが、集客が伸び悩んだり、開催に伴う人件費高騰など費用的な課題を抱え、なくなっていくイベントも少なくありません。 とくに音楽フェスは自治体や地域住民の理解が必要なだけでなく、芸能事務所など各所との調整が不可欠です。主催者のみならず、イベントとこの土地に魅せられた有志がボランティアとして関わりながら作り上げる大規模イベント「結いのおと」、そして他の地域からの移住者や経営者の受け入れに成功した結城市の事例は、今後の地域再生のヒントとなるでしょう。 ●取材協力 結いプロジェクト 結城商工会議所
小沢あや