人口5万人の街に1万2000人が来場! 商工会議所発の音楽フェスが成功したワケ 街なか音楽祭「結いのおと」茨城県・結城市
2010年当初はイベント開催にあたり地域の住民に説明をするも、なかなか理解を得られなかったといいます。しかし、野口さんが商工会議所の職員だったこと、飯野さんの実家が7代続く左官屋だったことが安心感に繋がり「それなら話を聞こうかな」と聞いてもらえることもあったそうです。 「商工会議所の職員の立場が、自分の個性であり強みになっている感覚はあります。どんどん街に主体的な活動をする人が増えていくといいなと願いながら活動をしています」 会場設営や騒音対策などの苦労はあったものの、10年以上にわたる活動で、地域の認知度と協力体制が少しずつ培われ、開催を支えているのです。 2023年には、「結いのおと」の取り組みが評価され、日本商工会議所の「全国商工会議所きらり輝き観光振興大賞」を受賞しました。
シャッター街の再生のため、まず立ち上げたのはクリエイティブチーム
野口さんは、結城市の隣にある古河市の出身。それまで勤務していた都内の大手アパレル企業を退職後、結城商工会議所に入所しました。野口さんがUターンで戻ってきた2007年当時、商店街は後継ぎがおらず廃業する店舗もあり、シャッター通り化。さらには国道沿いのチェーン店に人が流れ、閑散としていたといいます。 「地域を巻き込み、結城の新しい魅力を育てていきたい。いろいろな人がチャレンジできる、主体的に活動できる人を増やしたい。そのためには活動だけでなく、しっかりしたクリエイティブをつくって、地域や外の方々にアピールすることが大事だと考えました」(野口さん) そしてまちおこし事業の一環として、グラフィックデザイナー、筑波大学の芸術学部の大学院生など地域のクリエイティブな人材を集めた「結いプロジェクト」を2010年に立ち上げました。 結いプロジェクトの初企画として開催したのは、マルシェ「結い市」。会場と物販スペースには、江戸時代からの商店建築様式で店舗と住居を兼ねた建築物「見世蔵」を活用しました。
「結城市は関東で3番目に見世蔵が多い街です。ただ、どの見世蔵も雰囲気があるのに、ほとんどは活用されていませんでした。跡継ぎがいなくなって店を閉めても、居住スペースにそのまま暮らしている方が多く、店舗部分を賃貸スペースとして明け渡すことが難しいからです。まずはイベントを通し、見世蔵を再利用したいと考えました」(野口さん) 「お店部分を貸してほしい」と、見世蔵のオーナーである住民ひとり一人に声をかけ、2年目以降は開催エリアを街のあちこちに拡大。 神社エリアや街中エリア、酒蔵エリア、問屋街エリアと、エリアごとにゾーニングし、結城紬の問屋やお寺の境内など、街の象徴的な建物を活かしました。そしてそのそれぞれでワークショップやスタンプラリーなどファミリー向けの催しや、トークイベント、神社の神楽殿でのライブも開催。来場者が自然と結城の街を歩き回るような仕掛けです。 「出店者のみなさんにも事前に結城に来てもらいました。街歩きをすると、地域への理解が深まります。見世蔵の家主さんたちともコミュニケーションを重ねて、結城市以外の地域からでも、お互いに安心して出店できる体制を整えました」(野口さん) メンバーによる丁寧なコミュニケーションと、市内外から多くの人が集まる様子を見た地元の人たちから「うちの物件も使って」と声をかけられることが少しずつ増えていったそうです。 そして「結い市」の成功をきっかけに、音楽フェス「結いのおと」が2014年に生まれました。