「患者の痛みがわかるようになった」感染症医・岡秀昭が難病患者になって見えたもの
──感染症専門医として、ずっとコロナ診療の最前線を率いていましたが……。 「そうですが、一番(自身の症状が)ひどかった昨年5月と6月は寝たきりでした。教授になってまだ1年くらいの時でした。コロナ感染者も増え、現場を指揮しなければならない。それでも、起きられないので、ソファに寝ながら電話でスタッフたちに指示していた。まともに歩くこともできなかったし、1カ月で体重が7、8キロ減りました。梅雨のころは、本当に激しい痛みが起き、検査などをして病気が明らかになりました」 ──どのような治療を受けていますか。 「今はバイオ製剤(人工的につくった抗体)を月2回注射しています。1本10万円くらいの注射で、健康保険を使って3割負担です。指定難病と診断されると医療費が助成されますが、僕の場合、ベーチェット病でも不完全型というもので、いまのところ難病申請ができていないのです。ただ、バイオ製剤によって、ひどかった関節の腫れと口内炎は一時的には緩和しました。問題はこの病気は完全には寛解しないことで、よくなったり悪くなったりの波がある。天気や気圧の変化、ストレスがかかる、コロナの患者が増えてくるといったことで症状が悪化します」
──コロナ診療への影響もありますか。 「はい。以前はコロナの診療は全然怖くなかった。自分が率先して病棟に入り、若い人に対して、ナウシカじゃないけど『ほら怖くないだろう、感染防御していれば大丈夫だよ』と伝えていました。でも、病気になってからは、コロナが怖くなりました。免疫不全者になったことで、コロナにかかると重症化する可能性もある。それでも病室に入らざるを得ないのですが、この恐怖を持つことは感染症専門医として大きなストレスです」
コロナの過重労働とSNSというストレス
コロナの感染拡大の波と病気の悪化は連動すると岡医師は言う。さらにストレスは、病気発症の引き金にもなったのではないかと分析している。
──ストレスは病気の発症とどのように関わっていますか。 「当初はストレスでしょうと言われるのが嫌でした。病気を見極める鑑別診断で、全身に激しい痛みを覚える線維筋痛症という病気も候補に挙げられていました。ストレスが引き金で発症する病気です。でも、医師仲間からそう指摘されるのは嫌でした。ストレスに負けたように映るからです。結局ベーチェット病だろうという診断になりましたが、実際、梅雨、台風、コロナの波に合わせて具合が悪くなる。だから、やっぱりストレスも影響しているんだと受け入れるようになりました」 ──振り返って、何がストレスだったと思いますか。 「コロナの過重労働に加え、SNSによる誹謗中傷も大きなストレスになりました。コロナの現場の情報発信のために今も続けていますが、本当はもうツイッターはやりたくない。コロナが収束したら、すぐにやめたいと思っています。コメントを見ないようにしていても、やっぱりどうしても目に入ってしまう。匿名で石を投げつけるようなコメント、人格を否定するようなものもある。果ては、妻や子どもたちのこと、出身地、住所、乗っている車までSNSに投稿されたこともありました。『こんなに恵まれた生活していて、大衆の何がわかるのか』と。こうした投稿では警察に相談し、家族に警護がつきました。大学の広報部から削除依頼を出してもらって対応しました」