日本の野球用具職人に米国から直談判「製品に刺激を受けた」 代表投手が学びたかった職人精神
米国の救援右腕メネンデスは自身のグラブメーカーを立ち上げた起業家
野球日本代表「侍ジャパン」との対戦を前に、東京のグラブ工房を訪れた米国代表選手がいた。米大リーグ・レイズ傘下に所属するアントニオ・メネンデス投手は、「ラグザス presents 第3回 WBSC プレミア12」に出場。グラブメーカーを立ち上げた起業家でもある25歳が、日本のグラブに魅せられた理由や、野球とビジネスの両立について語ってくれた。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大) 【画像】「道具を通して自分を表現する機会を与えたい」 メネンデスが立ち上げた「Prospec Gloves」の特製グラブの写真 193センチの長身右腕の姿は、都内の小さなグラブ工房にあった。21日に東京ドームで開幕したスーパーラウンドの数日前。メネンデスは江戸川区を拠点とするグラブ工房「Two Way Player」社を訪れた。「1年くらい前からこのブランドを追いかけていた。訪日が決まった時に、ビジネスや野球文化、日本のグラブの作り方について直接会って話したいって連絡したんだ」と経緯を明かす。 スタッフ全員が副業(二刀流)ながら、熱い想いを持ってグラブ製作をしている同社とメネンデスには共通点がある。米ウェイクフォレスト大で金融学を学んだ25歳の右腕も、約1年前に「Prospec Gloves」というグラブメーカーを起業。マイナーリーガーと経営者という二足の草鞋を履き、「日本の野球文化と製品にかなり刺激を受けている」という。 日本のグラブの魅力を語る言葉は熱い。 「質と職人技が最上級。職人が各選手にとって何が必要か理解し、それに合わせて製作できる。米国では大量生産品が多く、デザインの独自性はあまり見られない。革の質も、日本のほうが明らかに良いんだ。特別な理由は、その職人精神にある」 一つひとつ魂を込めて作られた商売道具は米国代表の間でも人気。多くの選手が日本でグラブを購入したという。
ビジネスとの二刀流がもたらす好影響とは
現在60人ほどのプロ選手がメネンデスの会社のグラブを愛用。「道具を通して自分を表現する機会を選手に与えたい」という理念のもと、ロゴのカスタマイズなどを可能にしていることが特徴だ。今大会も、「自分にとって重要なもの」と天使のマークが入った自社のグラブなどをつけて4試合に救援登板。21日の日本戦は出番がなかったものの、防御率1.35、2勝2ホールドとマウンドを守った。 2021年ドラフト14巡目でレイズに入団。今季は2Aで39試合に救援登板し、6勝3敗、防御率3.14だった。自己分析は「ずっと起業家精神に溢れていて、ビジネス志向が強い人間」。野球とビジネスの両立を目指すが、「フルタイムで仕事をやればもっと成長させられるだろうけど、それは僕の使命じゃない。僕の使命は最も高いレベルで野球をすること」とメジャー昇格が一番の目標だ。 時間の制約を感じつつ、経営との二刀流がプレーにも好影響をもたらす。「選手が野球以外の趣味を持つのは重要なことだと思う。グラウンドでのことばかり考えていると、自分らしくいることの妨げになってしまい、プレーする上でもベストでいられなくなるから」。メネンデスにとって、その趣味がグラブデザインであり、ビジネスだった。 訪問した「Two Way Player」社では、記念のフルオーダーグラブを製作。数か月で完成する見込みで、「壁に飾ることになるだろうね。使うかどうかはわからないよ」と笑う。「これからも協力して、日本のスタイルとハンドメイド製品を米国に持ち込むことができたら。日本の野球やグラブについて学べて、本当に素晴らしい経験だったよ」。忘れられない思い出も作った。
THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro Muku