新幹線開業60周年、日本の鉄道にほれ込んだ英国人ジャーナリストが旅した北陸ルート
――北陸地方はいま世界でどのくらい注目されているんでしょうか。 多くの外国人訪日客は、東京や京都に行きたがりますが、私たちの番組は、そうした人たちが当初は行こうとは考えていなかった、旅行ガイドの上位リストに載っているわけではないけれど、新幹線を使えばとても簡単に、とても短時間で行けるようなすばらしい場所を知る機会になればと思っています。 ――日本は人口減少が進んでいて、60周年を迎えた新幹線は老朽化も指摘されています。それでもまだ海外の人にも訴える魅力がありますか。 もちろんです。先日も会議の後にその話題になりました。欧州やイギリスの人にとって、新幹線が60周年というのはいまだにちょっと衝撃です。なぜなら、60年たっても、とても未来的だし、新しい。 私たちは日本と同じようには高速鉄道を整備できていません。イギリスには一部に整備されましたが、第2期区間の高速鉄道は、政治的に非常に議論を呼んでいて、計画通りに建設できていません。日本では60年も前からあるのに、イギリスではわずかしか整備できていない。だから新幹線はちっとも古くないですし、とてもわくわくするものです。 多くの人にとって、日本はまだまだ未来を見すえている国に思えます。テックジャーナリストとして活動していても、サステナビリティーの分野などで特に日本には伝えるべきすばらしい技術がまだまだたくさんあります。鉄道の旅に関していえば、次回はぜひリニアモーターカーも取り上げたいと思っています。 ――日本の技術の受け止めについてはよく分かりました。では日本の人々の考え方はどうでしょうか。たとえば、日本では、障害がある人たちの「移動の自由」がたびたび問題になっています。行きたいところへ行くのに鉄道会社に電話したり、予約をする必要があったりします。社会のインクルージョン(包摂)については、イギリスや欧州と比べてどうですか。 これは私自身が日本を旅した経験からしか申し上げられませんが、私自身はあちこち出かけて行くにも、全般的に非常に便利だと感じました。東京のような大都市で多くの時間を過ごしたからかもしれませんが、駅は完璧にアクセシブルですし、スロープやエレベーター、エスカレーターがたくさん設置されています。物理的なアクセスでいえば、日本は、世界のほかの多くの場所よりずいぶん先を行っていると思います。 私は世界中を旅してきましたが、特に(日本の)鉄道では、プラットホームとの間に段差や隙間なく乗り込めます。小さなことに思えますが、イギリスの鉄道にはプラットホームとの間に段差があるため、車椅子の人は乗り込むのに介助が必要です。イギリスよりは進んでいます。 私自身が何もネガティブな体験をしなかったので、(日本の)人々の態度の部分についてあまり言及することはできません。今回の収録は同僚2人といっしょだったので、幸運な面もあったと思いますが、日本の人たちがいつも親切で、控えめながら必要があればいつでも手伝いを申し出ようとしてくれることに気づきました。誰かの(困難な)経験を矮小化するつもりはありませんが、私自身は本当にすばらしい時間を過ごせました。 日本はすべてが完璧だとは言いたくはありませんし、問題を感じている人がいるのも確かだとは思いますが、2019年に初めて日本に来た時から比べたら、この5年で改善していると思いますし、少しずつ良い方向へ向かっていると思います。ただ、変化にはとても長い時間がかかります。一夜に起きるものではなく、世代をまたいでいきます。でも、まずは良いスタートを切れていると思います。
朝日新聞社