磯村勇斗の表現者としての新境地とは? 村上春樹作品初のアニメーション『めくらやなぎと眠る女』への思い
村上春樹の6つの短編小説を音楽家でアニメーション作家のピエール・フォルデス監督が再構築した村上春樹原作の初のアニメ映画『めくらやなぎと眠る女』。アヌシー国際アニメーション映画祭で審査員特別賞を受賞した本作は英語によるオリジナル版と日本語版が同時公開される。実写撮影をベースにした独自の技法と緻密な音響設計によって表現されたマジックリアリズムな世界観。2011年の東日本大震災直後の東京を舞台に、人生に行き詰まった3人が遠い記憶や夢を彷徨いながら自身と向き合い、ゆるやかに解放されていくミステリアスな物語の中心にいるのは、妻キョウコの失踪を機に北海道へ謎の小箱を届けることになる銀行員、小村だ。日本語版で小村を演じたのは磯村勇斗。近年出演作が途切れない磯村に、今作での新たなトライや役者としてのヴィジョンを聞いた。 【インタビュー動画】磯村勇斗からの映画について、メッセージ
日本とフランス、ふたりの監督から得た刺激
──日本語版の『めくらやなぎと眠る女』の小村役のオファーがあった時、どんなことを感じましたか? 最初にオリジナル版のアニメーションを見させていただきました。日本やアメリカのアニメとは違うフランスの監督ならではのしっとりとした時間の流れや音を感じつつ、舞台は日本で登場人物が日本人なので不思議な感覚がありましたね。 僕は村上春樹さんの作品を全部読んでいるわけではないのですが、村上さん独特の世界観や個性溢れるキャラクターが小村を取り囲んでいる雰囲気に惹かれました。小村のずっと何かを探しているところも気に入り、やらせていただくことにしました。自分がこれまで接したことのないような系統のアニメーション映画ですし、オリジナル版を作ったフランスのピエール・フォルデス監督が日本版の監修も手掛けられると聞き、役者として新たな挑戦ができると感じたんです。 ──小村は震災5日後に妻・キョウコから辛辣な内容の置手紙を突きつけられてキョウコが姿を消した後、心身の旅に出るような印象がありました。小村の旅をどう捉えましたか? 突然あのような内容の手紙を置いていなくなってしまったらどうしたらいいかわからなくなりますよね(笑)。小村は猫を探すという目的があったから道を歩むことができて、でも猫だけではなく自分の心にぽっかり開いた穴を埋めるパーツを見つけに行く旅でもあるんだろうと思いました。だから芯を捉えたものではなく、どこか浮いているような表現ができたらいいなと思いました。 ──アフレコ現場にはフォルデス監督と日本版の演出を担当する深田晃司監督が立ち会われたそうですが、お二人からは声のお芝居に対してリクエストはありましたか? ピエールさんの意見と深田さんの意見が違うことがあって、それを役者陣がどう解釈して、どちらの意見をどう取り入れていくかということが今回の現場で一番難しかったです。ピエールさんがオリジナル版を作った監督ではありますが、日本語版を作る上では深田さんの演出によって、どう日本人の感覚を馴染ませていくかがとても重要です。ピエールさんと深田さん、それぞれが感じた違和感について、翻訳家の方を交えてみんなでディスカッションをして、どう取捨選択するかを決めていきました。言葉というものをすごく大事にしましたね。