<リオ五輪>体操・内村の逆転金メダルの奇跡はなぜ起きたのか?
一方、内村が中心に置いた手放し技はどうだったのだろうか。 「手放し技はタイミングさえ間違えなければ成功する動作」と城間氏は言う。 「車輪を正確にぐるぐるまわってさえいればいい種目」だからだ。 車輪の軸がぶれなければ、次々と技を続けていくことができる。内村の手放し技はどれも高難度の技だが「突き詰めて言えば、まわって、手を放して、宙返りをしてバーに戻ってくるという単純な動作の繰り返し」(城間氏)なのだ。 体力が限界に近づいた最後の鉄棒で、内村は楽に戦える演技構成を持っていた。 「それにしても内村選手は凄い」と城間氏は言う。 鉄棒の基本である車輪が完璧なうえ、どんな技をやってもヒザや足先が乱れることがない。だから、ぐるぐる車輪をまわる延長線で次々と難度の高い手放し技で得点を稼ぐことができるうえに、減点も少ないのだ。 さらに城間氏が注目したのは、G難度の手放し技、カッシーナのこの日のさばき方だった。 「内村選手の今日のカッシーナは、いつもよりバーに近いところに戻って来たように見えました。その分、肘がわずかに曲がり減点の対象となったと思います。でもそれは、落下のリスクを減らし、確実にバーを持つための選択だったと思います。空中に舞い上がるタイミングを微妙にずらして、意識的にバーの近くに戻って来たんだと思います。何としても勝つという気力、集中力はもちろんですが、それを支えるチャンピオンらしい高い技術と戦略を垣間見た瞬間でした」 たぶんこれは、奇跡ではない。 内村は、勝つべくして勝ったのである。