<リオ五輪>体操・内村の逆転金メダルの奇跡はなぜ起きたのか?
日本のエース、内村航平(27、コナミ)が個人総合で五輪の2連覇を達成した。5種目が終わってまだ2位。腰にはギックリ腰を起こし、これまでになかった危機的な展開に連覇が危ぶまれたのだが、最後の鉄棒で奇跡と言っていい大逆転を演じてみせた。 逆転の金メダルを呼び込んだものは何だったのだろうか。 内村は「団体戦の疲れ」と同時に「新星たちの追い上げ」とも戦った。 新星ライバルの筆頭は、個人総合だけに目標を絞ってくる昨年の世界選手権2位ランリケ・ラルデュエ(キューバ)だった。そのラルデュエは予選の跳馬で大崩れしたうえに、決勝の演技を棄権するのだが、予選1位通過のオレグ・ベルニャエフ(ウクライナ)が大健闘を見せて内村は窮地に立たされることになった。 4種目が終わって0・401点だった点差は、5種目め、ベルニャエフ得意の平行棒でさらに広がり0・901となった。 明暗を分けた最後の鉄棒。 先に演技した内村は15・800。最後に演技をしたベルニャエフは14・800。 内村が0・099上まわった。奇跡の逆転は、実力を出し切った内村と、出し切れなかったベルニャエフの差でもある。気力、プライド、経験、メンタルの要素は当然なのだが、3人の金メダリストを育て体操ニッポンを陰で支えてきた指導者、城間晃氏(シロマスポーツ代表)は「演技構成もまた大きなカギだった」と語る。 内村の鉄棒は屈身コバチ、カッシーナ、コールマンとバーの上で宙返りをともなう華麗な手放し技で点数を稼ぐ構成だった。対するベルニャエフは、ひねり技で点数を稼ぐ構成である。一見、内村は派手でベルニャエフは堅実だと映るが、実はココに逆転の素地があった。 ベルニャエフが演技の中心に置いたひねり技はバーの上で倒立姿勢になったときに、1回、1回半とひねりを入れてまた車輪に戻る動作である。簡単に見えて、軸がぶれたり、車輪の角度が狂ったりするリスクの高い神経を使う技なのだ。実際、ベルニャエフはひねり技のたびに生じる小さな乱れで減点を重ねることになった。予選では上手くいったが、最後はひねり技の乱れに足をすくわれたのである。