トランプ再び(2)ハリスの敗北-放棄されたリベラル路線
「労働者を忘れた民主党」
アメリカの有権者の選択をどう理解すべきだろうか。民主党系の急進左派で、上院議員のバーニー・サンダースの分析が話題を呼んでいる。2016年と20年、民主党の大統領候補を決める予備選に挑戦した際、ヒラリー・クリントンやバイデンを「エスタブリッシュメント(既得権益層)」と批判し、国民皆保険や最低賃金の引き上げなどを主張して「サンダース旋風」と呼ばれる熱狂的な支持を集めた。サンダースの目には、ハリスの選挙キャンペーンは既得権益層の方ばかりを向いたものに映じていたようだ。敗北が明確になってほどなく、サンダースはXに投稿した声明文で、「労働者階級を見捨ててきた民主党が、労働者階級から見捨てられたのは驚きに値しない」と断じた(※2)。 確かにトランプの経済政策については、高関税政策はじめ、インフレをむしろ加速させ、労働者の生活をより苦しくするとも指摘されている(※3)。しかし今の時点で重要なことは、こうした政策面での曖昧さにもかかわらず、多くの有権者がトランプを経済的な苦境から自分たちを救ってくれる政治家として信任したことだ。 ハリス陣営には大企業からの献金も殺到し、献金額でトランプ陣営を圧倒したが、これがハリスの選挙キャンペーンに小さくない影響を与えたのではないかともみられている。バイデン撤退後、ハリスが後継候補として有力視される中で、10日間でハリス陣営には大企業の幹部ら約5000人から約200万ドルもの献金が集まった。大統領候補に正式指名された当初、ハリスは不公正な値上げで巨額の利益をあげる大企業を厳しく取り締まる考えを打ち出すなど、物価高に苦しむ国民への訴えを重視していたが、その後、大手企業やウォール街、シリコンバレーとの関係を強化するにつれ、反大企業の主張をトーンダウンさせた(※4)。中間層の生活立て直しに関する明確なメッセージを打ち出せない中、トランプ2期目がいかに民主主義にとって脅威かを訴えるハリスの主張はどこか抽象的で、多くの有権者の心を捉えることにはならなかった。