F1オーストリアGPで効果発揮した“新トラックリミット”、シルバーストンでも実装へ。ドライバーやファンからの不満を一掃できるか?
先日行なわれたF1オーストリアGPでは、かつて起きたトラックリミット違反が多発するという問題を解決するために、新たなグラベルトラップの設置やホワイトライン位置の変更など、新たな策が用いられた。これらは一定の効果を発揮したが、今週末のF1イギリスGPでも、それとほぼ同様の形でリニューアルが行なわれた。 【動画】フェルスタッペンとノリス、優勝争った2台がまさかの接触|F1オーストリアGP決勝 オーストリアGPの舞台であるレッドブルリンクではこれまで、最終セクションの高速区間でドライバーがコーナーのアウト側に膨らみ、コース外を通過して走るケースが非常に多かった。当然、トラックリミット違反が検知されれば予選ならラップタイム抹消、決勝なら複数回の違反でペナルティという措置が取られるのだが、当該区間はアスファルトだったためドライバーにとってはペナルティさえ受けなければコース外走行のデメリットはないような状況であり、コース外走行が頻発。レース後に数多くのペナルティが”追加”されるという事態となった。 こういった状況によるトラックリミット違反の多発を抑止するべく、レッドブルリンクは縁石のすぐ外側にグラベルトラップを追加。さらには白線の位置をややアウト側に調整することで、グラベルに乗らずにトラックリミットを逸脱することを不可能にした。 シルバーストンにおいても、高速コーナーのストウとコプスでのトラックリミット違反を抑止するため、レッドブルリンクと似たようなソリューションが導入される。ただ、そこにはいくつかの違いがある。 まず旧レイアウトの1コーナーとして知られる高速右コーナーのコプスに関しては、グラベルの追加はされていない。しかしながら、レッドブルリンクと同様にコースの端を定義するラインが縁石の上に置かれることになり、当該ラインから縁石外側の端までの幅が1.5mに縮小された。 これはF1マシンの車幅が2mであることに関係している。上記の措置によって、縁石の外にタイヤがはみ出しさえしなければ、確実にトラックリミットは守れているということになるため、ドライバーにとってもトラックリミットを認識しやすくなっている。またラインも前回同様にブルーにペイントされており、ドライバーの視認性向上をアシストしている。 またmotorsport.comの調べによると、レッドブルリンクのように縁石のすぐ外にグラベルが敷かれていない件についてFIAは、アスファルトランオフのグリップレベルは本コースと比べてかなり低いため、抑止力として十分なものだと考えているようだ。 一方でストウの変更については、来月シルバーストンでレースを行なうMotoGPライダーたちの承認を得て変更されたと見られる。コースを定義するライン(青線)はコプス同様に縁石の外側に移動しており、グラベルトラップに関しては、ところどころ6~8mほどコース側に移動しているが、それでも縁石とグラベルの間にはかなりのランオフエリアが残っている。 昨年行なわれたトラックリミット問題の検討において、FIAは大きな問題を抱えるふたつのサーキットとしてレッドブルリンクとシルバーストンを挙げ、2024年はこれらのサーキットで行なわれるイベントでアクションを起こすことを目指していたようだ。またトラックリミットが問題視されるその他のサーキットにおいて、グラベルトラップを設置することは容易ではないかもしれないが、解決策の一環としてホワイトラインの調整を検討しているという話もある。 一方でトラックリミットの監視体制については、ドライバーから不満の声も挙がっている。マクラーレンのオスカー・ピアストリは、オーストリアGP予選Q3のターン6でラップタイムを抹消されたことに未だ苛立っているという。 高速の左コーナーであるターン6は縁石の外側にすぐグラベルトラップがあるコーナー。こここも白線の移動によって縁石幅が若干狭くなったが、それでも幅は1.8mと、最終セクションと比べるとやや幅が広く、ドライバーがアウト側に膨らみやすいような構造だった。ピアストリは当該箇所でのトラックリミットの監視について、次のように語った。 「僕にとっては、ふたつのポイントがある」 「まずひとつ目は、もしマシンがコースオフするスペースがあるのであれば、それを公正な方法で監視するべきということだ」 「僕のラップが抹消された証拠は、そのラップだけ僕を監視していたヘリコプターによるものだった。これは少し厳しいね。(マクラーレンがこの件で抗議したのは)他の人たちだってヘリコプターが来ていない時にコースオフした可能性があるからだ」 「だから非常に微妙なラインだと思うし、議論も必要だ。とはいえ、それをなくす最も簡単な方法は、ホワイトラインを20cmワイドにする(外側にする)ことだ。そうすれば全く心配はない」 「先週言ったポイントの繰り返しになるけど、僕のホイールの半分がコースから外れてほとんどグラベルの中に入っているようなカメラショットは、誰もが見たい本当にクールなショットだろう」 「他の多くのコーナーで手を尽くしたにもかかわらず、最終的にはこういう問題が起こってしまったのは残念だった。もちろんタイムを抹消されてしまった僕にとっても痛いけど、ファンのみんなも『(コースに)残ったか、残っていないか』なんて誰も見たくないと思う」 なおFIAもレースディレクターを務めるニールス・ウィティヒが公開したイベントノートによると、コース上のその他の変更点として、いくつかの箇所で“コンビネーション縁石”が削除され、チャペルの左側にはグラベルトラップが追加されている。コプスやストウだけでなく、ベケッツでもラインの調整が行なわれている。
Alex Kalinauckas