平安時代も「映える」ことを最優先するタイプはいた。いつの時代も、キラキラ女子を冷めた目で見る、反対勢力の女子…という構図が!【NHK大河『光る君へ』#30】
紫式部を中心に平安の女たち、平安の男たちを描いた、大河ドラマ『光る君へ』の第30話が8月4日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。 【画像】NHK大河『光る君へ』#30
まひろが書いた作品は四条宮の姫たちから好評。才能開花は間近?
先週の放送ではききょう(=清少納言・ファーストサマーウイカ)が『枕草子』を完成させ、本放送ではまひろ(吉高由里子)の物語作家としての才能が少し開花しました。また、妻からまひろの書く物語のおもしろさを聞いていた公任(町田啓太)は、帝が気に入るほどの面白い書物を書く者がどこにいるのかとぼやく道長(柄本佑)にまひろの才能を伝えるシーンもありました。視聴者の間では『源氏物語』創作も間近ではないかと期待の声が挙がっています。 ききょうが執筆した『枕草子』はあかね(泉里香)がきっかけとなり、敏子(柳生みゆ)が運営している会でも話題になりました。 とはいえ、この会では『枕草子』の評価はさほど高くないようです。あかねは「でも 私 読んでみましたけどさほど 面白いと思いませんでした」と感想を率直に話しています。また、敏子については「先生の「カササギ語り」の方がはるかに面白うございました」と述べているように、まひろの物語の方を気に入っているようです。 定子(高畑充希)派の男性陣は『枕草子』を大絶賛していますが、四条宮の姫たちの関心を惹くのは難しかったようですね。
平安時代、権力者の「影」の部分を書き留めないのが一般的だった
『光る君へ』の29話には、ききょうが執筆した『枕草子』をまひろが読むシーンがありました。ききょうは執筆の目的について、亡くなった中宮・定子(高畑充希)の美しく、聡明でキラキラと輝いていた姿、この世のものとも思えぬほど華やかであった後宮の様子が後の世まで語り継がれるよう書き残しておいたと説明しています。まひろは「生き生きと弾むようなお書きぶりですわ」と『枕草子』を褒めつつも、以下の感想を伝えています。 「ただ 私は 皇后様の影の部分も知りたいと思います。人には 光もあれば 影もあります。人とは そういう生き物なのです。それが 複雑であればあるほど魅力があるのです。そういう皇后様のお人となりをお書きに…。」 まひろは幼少期から不条理な出来事と向き合い、上流貴族や庶民などさまざまな階層の人たちと出会う中で、人間には光の部分のみならず、影の部分もあることを学びます。それは、浮き沈みが激しい宮中に仕えるききょうだって同じはずです。しかし、彼女は「皇后様に影などはございません。あったとしても 書く気はございません。華やかなお姿だけを人々の心に残したいのです」と、まひろのすすめを断固として拒否します。 ききょうは定子にある影の部分を一度は否定しているものの、影があることは誰よりもよく分かっているはずです。ききょうのこうした態度も人間らしいといえるでしょう。人間は憧れの人物の影の部分を知ったとしても、その部分には目をつぶろうとしてしまいがちです。あるいは、そうした部分は自分の心の内にとどめておくべきで、周囲に知らすべきではないと考えることもあります。 当時、実在の権力者について書き綴るとき、ききょうのようにその人物がもつ光の部分にだけ焦点を照らした書き方が一般的でした。例えば、藤原道綱母による『蜻蛉日記』について受領の娘である道綱母が玉の輿婚を誇示している作品だとか、夫とうまくいかず悩み苦しむ日々の気晴らしだとかさまざまな解釈が飛び交っていますが、兼家の歌集という見方もされています。道綱母は兼家に対して思うことがあったものの不遇の時期については本作に書いていません。さらに、本作における兼家のうるわしい姿は彼の権威を高めることを目的とした描写のようにも読み取れます。 『光る君へ』では、ききょうは自身が執筆した『枕草子』を通して定子の美しさやきらびやかさを世に広めたいと話していましたが、権力者について書かれた作品は当該人物の名誉を高める道具として使われることが当時ににおいてよくありました。これらの作品ではその人物の影の部分については綴られない傾向にあり、その人のきらびやかさをいかに伝えるかに重点が置かれています。 現代に属する私たちの中には成功者の影の部分を知ることで、その人への思いがより強まるという人も筆者を含めて多いと思います。例えば、兼家についても政界で厳しい立場に置かれた時期がありましたが、こうした事実を知ることでこそ彼に心を寄せる人もいるでしょう。
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