「病気だからと全部あきらめなくていい」バセドウ病を公表した向後桃が語る、プロレスラーの道を選んだ理由 #病とともに
「リングにいると生きていることを実感できる」病気でもすべてをあきらめる必要はない
――バセドウ病が分かってから、プロレスラーになったのはどういったきっかけがあったのでしょうか。 向後桃: たまたまテレビで放送されていた女子プロレスの試合を見た時にすごくのめり込んで、朝まで夢中で見てしまいました。そこからプロレスに興味を持ち、試合を見に後楽園などに通うようになったんです。そのタイミングで、私が以前所属していたアクトレスガールズというプロレス団体の代表の方に「プロレスラーになりませんか?」と声をかけていただいたのがきっかけです。 当時はすでに投薬治療をしていたので、横断歩道を渡れないような状態だった自分からはもう脱していて、アクションがある舞台に向けて筋トレができるようにまで回復していたので「今の私ならきっとできる!」と思ったんですよね。病気で思うように動けない自分だったからこそ「今の自分がもしかしたら人生で一番元気かもしれない」と、いい意味でバセドウ病が一歩を踏み出すきっかけになりました。 ――2020年にバセドウ病を公表されましたが、どのような思いで公表を決めたのでしょうか。 向後桃: SNSで、私と同じ病気の方がいろいろなことをあきらめたり、絶望したりしているのを見かけていたので、「病気でも全部をあきらめる必要はないんだよ」と伝えたかったんです。病気を公表してから、同じ病気の方や他の病気を治療している方から「すごく励みになりました」とか「勇気になりました」という言葉をもらえることがあって、すごくうれしかったのを覚えています。 バセドウ病は投薬治療で変わっていける病気ですが、たとえ投薬だけで治らない病気であったとしても、できることをしていたら夢を追うことはできる。その夢がたとえ叶わなかったとしても、夢を追う過程で新しい夢を発見したり、他にやりたいことが見つかったりすることはあると思うんです。私はバセドウ病と一緒に膠原(こうげん)病も公表したんですが、通院している大学病院の先生からは「膠原病でこんなに元気な人はいないし、プロレスラーしているなんて信じられない」と言われています。私も自分が病気なのは分かっていたけれど、何事もあきらめなくてよかったなと思いますね。 病気ではなくても、自分が頑張れないことで自分を追い込んでしまう方には「自分を追い込まず休みたいときは休んで、少しずつでもやりたいことをやっていけば夢につながるよ」と伝えたいです。そういった方たちの希望や勇気になりたいですね。 ――向後さんにとってプロレスはどんな存在ですか? 向後桃: リングに立って感情むき出しで戦っている時は、すごく生きていることを実感できます。それまで走ることすらままならなかった自分が、リングの上で戦えて、日本各地や海外に行って試合をする毎日を送れていることは本当に夢があるし、自分のやりたいことにチャレンジできることがありがたいなと感じています。 辛い時があったからこそ、いま、私はほんとうに幸せです。