「病気だからと全部あきらめなくていい」バセドウ病を公表した向後桃が語る、プロレスラーの道を選んだ理由 #病とともに
◆医療ジャーナリスト・市川衛氏の「専門家の目線」
――バセドウ病とはどのような病気なのでしょうか。 市川衛: 甲状腺ホルモンは、全身の臓器に作用して代謝を司るなど大切な働きを持つホルモンです。バセドウ病は、甲状腺がこのホルモンを過剰に作ることで、体がいわば「常に活動状態」になってしまう病気です(このホルモンが逆に少なくなるのが「橋本病」という病気です)。 「常に活動状態」というと元気になりそうですが、実際は、体に負担がかかり続ける状態になるので、うまく休めず、疲れやすくなります。女性に多い病気で、日本内分泌学会によれば、男性1人に対して女性はその3~5倍いるとされます。 ――向後さんのように、バセドウ病を患いながらもレスラーとして活動する姿を通して、どのように思われましたか。 市川衛: 現在では、向後さんはご自身の人生をいきいきと楽しんでいらっしゃるという印象を受けました。病気に気づくことができ、診断を受けて、適切な治療につながったことで、生活の質が上がったことがひとつの要因だと思われます。 一般的に、診断や早期治療は大事だと言われますよね。でも何より重要なのは、それをきっかけに、当事者の生活が豊かになったり前向きになれたりするかどうかです。 ――病気と診断を受けた方が周囲にいたとき、私たちはどのような受け止め方ができれば良いのでしょうか。 病気と診断されたと聞くと、その人を大事に思うからこそ「いまは無理せず、じっとしていなければ」と声をかけたくなりますね。もちろん症状によっては、行動の制限が必要だったり、そもそも前向きになることが難しいケースもあります。でも診断や治療のそもそもの目的は、「その人の生活の質を高めること」だということは忘れてはいけないと思います。周囲が過剰に止めることで、患者さん自身が、「病気なのだから、前向きになってはいけない、楽しんではいけない」と思ってしまうと、せっかくの早期診断や治療が、その人の人生に悪い影響を与えてしまうリスクもあります。 その人が病気を抱えても、やりたいことやかなえたい思いをもっているならば、それを支えられるよう、自分にできることはないかと考えること。それが、なにより大事な心構えだと私は思います。