【社説】変わる税制論議 決定過程の透明化へ進め
税金は社会を維持する費用をみんなで負担する仕組みである。誰がどれだけ負担するかを定めたのが税制で、その改正は開かれた場で議論するのが望ましい。 衆院選を経て石破茂政権は少数与党となった。予算案や法案の成立には野党の協力が不可欠だ。税制改正もこれまでのようにはいかない。 自民、公明の連立与党が衆参両院で過半数を占めていたときは、自民の税制調査会が強力な権限を持ち、少数の幹部議員だけで税制改正の内容を決めていた。 与党の税制改正大綱がそのまま政府の大綱となり、関連法案が国会で可決、成立するのが確実だったからだ。 このため税制改正論議が大詰めになると、負担の軽減措置を求める企業や業界団体の関係者が自民税調の会合に詰めかけるのが恒例だった。 税調が持つ権限は、自民が多額の企業・団体献金を集める力の源泉である。 献金について経済団体トップは「民主主義のコストを負担するのは社会貢献」と口にする。これは建前だろう。 実際は、減税などの実利を得るための経費の意味合いが大きい。企業が利益の最大化を追求する以上、献金の見返りを求めるのは必然だ。 少数与党になったことを契機に、大企業の声を反映しがちだった税制改正の議論や決定過程を透明化すべきだ。密室の自民税調で決めることはもう通用しない。 2025年度の税制改正論議は始まっている。国民民主党が衆院選で公約した「103万円の壁」の引き上げによる減税、トリガー条項の凍結解除に伴うガソリン価格の引き下げが焦点となる。 防衛力増強に充てる増税の具体化も重要な論点だ。調整は難航するとみられる。 トリガー条項は、レギュラーガソリン1リットルの全国平均価格が3カ月連続で160円を超えた場合に一部の課税を停止し、価格を1リットル当たり25円10銭引き下げる措置である。民主党政権だった10年に導入され、東日本大震災の復興財源を確保するために凍結されている。 国民民主は岸田文雄前政権に対しても凍結解除を要求したが、実現しなかった。 防衛力増強の財源は岸田政権が法人、所得、たばこの3税を増税する方針を決めながらも、開始時期の決定を先送りしている。 富裕層優遇との批判がある金融所得課税の見直しも手つかずのままだ。 負担増を求める議論から逃げるのは、責任政党として失格だ。増税が必要と判断すれば、国民や企業に説明して理解を得ることが政府、与党の責務である。減税を求める野党とも協議を重ね、着地点を探りたい。 国民の関心が高い「年収の壁」対策については、立憲民主党も法案を国会に提出している。国民に見える議論を尽くしてもらいたい。
西日本新聞