飲むお酢、ピクルス…~健康志向で酢が大人気
戦わずして勝つ!~大手ができない弱者の戦略
一般的な酢の多くは米や小麦などの穀物酒と醸造用のアルコールを混ぜて、そこに酢酸菌を加え、機械を使い短期間に発酵させて造る。一方、飯尾醸造は効率の悪い昔ながらの製造法を守っている。だから売り上げは約4億円と、大手とは比べ物にならないほど小さい。しかし、これこそが飯尾の戦略なのだ。 「競わない競争戦略と言っているんです。弱者なので競争になったら負ける。だから競争のない世界を作り出す」(飯尾) 〇弱者の戦略1~「徹底的に『本物』にこだわる」 飯尾醸造の酢造りは原料の米作りからはじまる。地元の棚田を耕しているのは農家ではなく、飯尾醸造の社員。農薬や化学肥料を使わない米を安定して調達するため、自社で米作りから行っている。 その米を使い、まずは日本酒を造る。だから飯尾醸造は酒造免許を持っている。今、酒造りから行う酢のメーカーは数えるほどだという。麹に蒸した米や水などを加えてじっくり発酵させること約30日。ようやく酢造り用の日本酒が出来上がる。少し濁っているのは、「きれいなお酒ではなくて、雑味を多く含んでいる。それがお酢になったときにうまみに変わる」(杜氏・藤本真充)からだという。
出来上がった日本酒に発酵の素となる酢酸菌をそっと浮かべる。混ぜずにじっくり発酵させることでうまみが出てくるという。発酵しやすい適温にキープするため、温度を定期的に計って様子を見る。気温の変化に合わせて樽とふたの隙間を調整していく。商品になるのは1年以上先だ。 こうしてようやく出来たのが看板商品の「純米富士酢」(360ml、648円)。値段は普通の酢の5倍もする。 「効率が悪いものづくりをしているのが強みです。他所がやらなくなって、最終的にはうちだけの世界が作れる」(飯尾)
〇弱者の戦略2~「大手が作らない商品」 飯尾がしゃぶしゃぶ専用に作った酢が「しゃぶしゃぶに夢中」だ。 「弱者の戦略のひとつ。いくらおいしいごまだれやポン酢を作っても、すでに他のメーカーが作っている。そうではない3つ目のたれを作ったんです」(飯尾) 飯尾の戦略は、大手はまず作らないような、あえて使い道を絞ったニッチな商品を作ること。他にも料理や用途を絞ったニッチな酢を次々と開発してきた。 その一つが手巻き寿司の酢飯専用の「富士手巻きすし酢」(360ml、1648円)。ピクルス専用の「ピクル酢」(360ml、756円)も他社にさきがけて開発した。 〇弱者の戦略3~「応援団をつくる」 神奈川・三浦市に住む石橋さんが飯尾醸造のファンになったきっかけは蔵見学。見学ツアーに参加してこだわりの造り方に感動し、以来、家族そろって熱烈なファンになった。 蔵見学以外にも、毎年希望する客と一緒に田植えや稲刈りを行い、交流を深めている。こうした取り組みで熱烈な応援団を獲得。購入客のリピート率は7割にのぼる。 「大きな会社だとマーケットリサーチなどをするが、うちは小さいからこそ1人のお客さんに猛烈に愛されると、結果的に口コミで広まったりします」(飯尾)