はやぶさ2、高精度タッチダウンでリュウグウの“牙”に挑む
着地点選びのカギとなった「マーカー」
ただし、タッチダウンの予定地はさらに絞り込まれました。はやぶさ2のタッチダウン予定地は当初、リュウグウの赤道付近に位置する1辺100メートルの「L08」という場所が選定されていたのですが、L08には岩塊の多い部分も含まれていることが分かってきました。L08の中でも、岩塊が少ないとみられる半径10メートルの「L08-B」に着地する方針の下、2度のリハーサルを進めていったのです。 10月14日から15日にかけて実施された2回目のリハーサルは、中断された1回目のリハーサルと同じ手順でおこなわれ、高度22.3メートルまで降下することに成功しました。高度30メートルより低い場所では、レーザー・レンジ・ファインダー(LRF)を使って高度を測定します。はやぶさ2は、2回目のリハーサルでこのLRFを初めて使用し、問題なく動作していることが確認されました。 3回目のリハーサルは、10月24日から25日にかけて行われ、はやぶさ2は高度12メートルまでリュウグウに接近しました。このとき、高度13メートルからターゲットマーカーを分離し、リュウグウの表面に投下することに成功しました。ターゲットマーカーは、タッチダウンの際の目印にするもので、インターネットを通して世界中から応募があった約18万人の名前を刻んだプレートが取りつけられています。この18万人分の名前は、ターゲットマーカーとともに無事、リュウグウへ届けられたことになります。 ターゲットマーカーが静止したのは、L08-Bの中心から15.4メートル離れた場所で、予定よりも遠くに落ちました。もともとの投下目標はL08-Bの中心部分だったので、投下精度は15.4メートルという結果となったのです。またリハーサルでL08-Bをより近くから見た結果、高さ70センチほどの岩塊が予想よりも多いことが分かってきました。
凸凹な表面「ピンポイント」方式を採用
運用チームは、これまでの観測によって得られたデータをもとに検討し、タッチダウン予定地をさらに狭め、最大の差し渡しが12メートルの「L08-B1」に絞っていきました。このとき、ターゲットマーカーが静止した場所の近くにも平らな領域が発見され、「L08-E1」と名づけられました。3回目のリハーサルが終了した後、このL08-E1も新たな候補地として浮上してきたのです。 2つの候補地のメリットとデメリットを比較し、検討した結果、最終的に1回目のタッチダウンを2月22日に、着地予定地をL08-E1として実施することが決まりました。 なぜL08-B1ではなく、L08-E1にタッチダウンするという決断がなされたのでしょうか。その大きな理由はターゲットマーカーからの距離です。実は、3回目のリハーサルの実施が決まったあたりから、運用チームは2種類のタッチダウン方法を本格的に検討し始めました。 1つは、初代のはやぶさと同じタッチダウン法(はやぶさ方式)。そして、もう1つが「ピンポイントタッチダウン」です。はやぶさ方式は、タッチダウンの直前に分離したターゲットマーカーを追尾しながら高度を下げていくので、タッチダウンの精度は、ターゲットマーカーの投下精度で決まってしまいます。 3回目のリハーサルで投下されたターゲットマーカーは15.4メートルという精度で、当初予定されていたL08-Bの範囲に収まっていませんでした。この方法では、より狭い領域のL08-B1、L08-E1に着地させるには不安が残ります。 そこで、採用されたのが、ピンポイントタッチダウンです。この方法では、事前に投下されたターゲットマーカーの位置とタッチダウン予定地の位置関係を、はやぶさ2に覚えさせておきます。はやぶさ2は、カメラの視野の中にターゲットマーカーを入れながら降下していき、目標地点に精度よくタッチダウンすることを目指します。 ピンポイントタッチダウンは、目標地点がターゲットマーカーに近いほど着地の精度がよくなります。L08-E1は、L08-B1よりも安全に着地できる領域は狭いのですが、ターゲットマーカーがより近くにあるために、ピンポイントタッチダウンの手法を利用すれば、L08-B1よりも精度よく着地できると判断されたのです。津田氏は2月6日の会見で「リュウグウという天体の情報をより詳しく知ることに注力してきた。その意味では、リュウグウの牙の形状がそれぞれ分かってきたという状況で、攻略の仕方が分かったところです」と説明しました。