被爆者との出会いが双子のアメリカ人姉妹を変えた 「胸が張り裂けそう」…核兵器廃絶を目指す16歳を後押しする証言とは
被爆者の思いに共感し、核兵器廃絶を目指して活動する16歳の双子姉妹がアメリカにいる。現地に住む被爆者から体験を聞き取って英文ウェブサイト「軍縮と不拡散を目指す10代」や交流サイト(SNS)で発信し、「未来のことを決めるのは若者だ」と同世代が核問題を知る機会をつくることにも力を入れるが、2年前に被爆者と出会うまでは原爆のきのこ雲の下で起きた惨状を知らなかった。「胸が張り裂けそうだった」と振り返り、活動の原動力にもなっている体験者の言葉とは。(共同通信ロサンゼルス支局 井上浩志) 【写真】朝どうしても起きられず…休んだら、生き残った。 「作業に行っていたら自分も焼け死んだか」 被爆者が80歳を過ぎて体験を語り始めた理由 22年
※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ▽団体を設立 「私たち次世代の若者が核なき世界をつくることが(被爆者の)願いだ」。 5月、ロサンゼルス近郊パサデナの女子校「ウェストリッジ・スクール」で、同校10年生(日本の高校1年生に相当)の日系アメリカ人、カノン・イワタさんが、広島で被爆しアメリカに移住したビル・オオタさん(95)の思いを代弁した。 この日開いたのは、カノンさんと姉のマノンさんが課外活動として企画した講座「ピース・フォーラム」。核軍縮などに貢献する市民を育成する「軍縮・不拡散教育」の専門家であるモントレー不拡散研究所の土岐雅子研究員を招き、同級生ら15人ほどが参加した。 2人は2022年、非営利団体「軍縮と不拡散を目指す10代」を設立。「被爆証言を広めたい」とこれまで約10人の体験や思いをサイトやインスタグラムで発信してきた。核廃絶の志を共有する日本の高校生らと出会い、広島を2回訪問。知人のウクライナ人を通じ、ロシアの侵攻で核の脅威に直面するウクライナの首都キーウに住む若者とも交流し、現地に団体の支部を設立してもらった。 ▽祝えない誕生日
活動のきっかけは2022年、父親である日本人医師の岩田俊平さん(51)が診療に訪れるロサンゼルスの高齢者施設でボランティアをしたことだ。入所者と交流を深める中でオオタさんら原爆被害に遭った人がいることを知り、体験に耳を傾けた。その出会いは偶然だった。 オオタさんは、アメリカが広島に原爆を投下した1945年8月6日が16歳の誕生日だったと打ち明けた。戦時下、ささやかながら祝福しようと集まってくれた友人3人と学校を出た頃が午前8時15分。オオタさんは閃光を浴び、激しく血を流して全身に激痛が走った。友人は1人が大やけどを負い死亡。もう1人も変わり果てた姿で亡くなっており、残る1人はオオタさんが生きていることを確認して「おまえ良かったね」と言い残して息を引き取ったという。 自分だけが生き残ったことに対する罪悪感を背負った誕生日を、オオタさんはその後祝うことができない。アメリカでは、誕生日ケーキのろうそくを吹き消す前に願い事をする慣習がある。イワタさん姉妹は「今まで祝えなかった誕生日分の願いがもしかなうとしたら、何を願いますか」と尋ねた。返ってきた答えが若者による「核なき世界」の実現だった。