「音のデバイス」として進化を遂げるApple製品 iPhone 16からAirPods 4まで、その革新と影響を探る
日本時間9月10日におこなわれたAppleの発表会では、音に関する革新的な新機能を搭載した最新デバイスが登場し、音楽やオーディオ業界で大きな反響を呼んだ。『iPhone 16/16 Pro』の高度な音声録音機能から、それを支えるApple Intelligence、そして『AirPods』の聴覚健康機能まで、Appleは「音のデバイス」の新境地を切り開こうとしている。 【画像】Apple Intelligenceで「iPhone」と「音」はどう進化する? 今から活躍が楽しみな『iPhone 16 Pro』 本稿では、9月20日に発売したばかりのこれらの製品と新機能が、先述した業界や我々の日常生活にどのような影響を与えるのか、考察していく。 まず、『iPhone 16』と『iPhone 16 Plus』には新型チップ「A18」、上位モデルの『iPhone 16 Pro』と『iPhone 16 Pro Max』にはさらにパワフルな「A18 Pro」が搭載され、スマートフォンとしての性能が多方面で進化した。音の面では、従来モデルよりもさらに高度な音声処理が実現している点に注目したい。特に『iPhone 16 Pro』と『iPhone 16 Pro Max』では、4つのスタジオ品質のマイクが搭載され、よりリアルかつ高品質な録音が可能になった。 また、両モデルに共通する革新的な機能として、空間オーディオでのビデオ撮影機能が追加された。これにより、『AirPods』、『Apple Vision Pro』、またはサラウンドサウンドシステムで臨場感あふれる視聴体験が可能になった。 さらにオーディオミックス機能も両モデルに導入された。この機能を使用すると、撮影後にビデオのサウンドを編集できる。オーディオミックスには3つのモードがあり、「フレーム内モード」では、フレーム外の人が撮影中に話していても、フレーム内の人の声だけをとらえる。 「スタジオモード」では、防音壁を備えたプロ仕様のスタジオ内で録音した音声のように仕上げられ、被写体が少し離れていても、口元にマイクがあるように聴こえるため、Vlogやポッドキャストの制作者に適している。 「シネマティックモード」では、周囲の声をすべてとらえて、スクリーンの前方に集め、映画用のサウンドフォーマットと同様の方法で処理される。くわえて、風切り音を低減する機能も搭載されており、強力な機械学習(ML)アルゴリズムが不要なノイズを低減してオーディオ品質を高める。これらの機能により、iPhoneは“単なるスマートフォン”を超えて、プロフェッショナルな音声・映像制作ツール化した。 近年はYouTubeからMVまで、さまざまな動画がスマートフォン1台で撮影されているが、こうした映像コンテンツでは、どちらかといえば、音よりも映像のクオリティの方に興味が行きがちだ。実際に『iPhone 16 Pro』シリーズでは、スマートフォンでありながらも4K/120FPS撮影対応というハイスペックが実現している。それに加えてこうした音のクオリティへの配慮がある点は、クリエイターたちの創造性を大いに刺激することだろう。 また、近日中にはボイスメモアプリにも「マルチトラックレコーディング」機能が追加される予定だ。iPhoneのボイスメモアプリは、これまでもミュージシャンの間で楽曲アイデアのスケッチ用ツールとして使用されてきたが、今後はこの機能により、ギターを弾いて、そこに追加で歌を録音するなど、マルチトラックレコーダー的な使い方ができるようになる。さらにそこから歌など任意のトラックを音源分離させるといったこともできるため、これまで以上に音楽制作やポッドキャスト制作などのクリエイティブな活動に活用できる可能性が広がったことに注目したい。 そんなiPhone 16/16 Proの高度な音声機能を支えているのが、Appleが新たに発表したAI「Apple Intelligence」だ。今年10月に「iOS 18.1」「iPadOS 18.1」「macOS Sequoia 15.1」といった最新OSによって提供を開始されるApple Intelligenceは、生成モデルのパワーをパーソナルコンテクストと組み合わせて、“驚くほど有用で関連性のあるインテリジェンスを提供する”とAppleが謳う高度なパーソナルインテリジェンスシステムになっている。 その中で音の面での進化として筆者が注目しているのが、メモアプリと電話アプリだ。Apple Intelligenceにより、これらのアプリでは、音声の録音、書き起こし、要約といったことが可能になる。たとえば、電話アプリで通話中に録音が開始されると、参加者に自動的に通知が届き、通話が終了すると、重要なポイントを思い出せるようにApple Intelligenceが要約を生成してくれる。そのユースケースとして、筆者のようなライターであれば、インタビュー取材、あるいはビジネスパーソンであれば、ビジネスミーティングや各種セミナーなどが考えられる。この機能により、ユーザーは効率的にこれらの内容を記録し、振り返ることが可能になるはずだ。これもAppleが仕掛ける新たな音にまつわる体験の革新と言えるだろう。 ■「音」といえば外せないAirPodsシリーズは大きく進化し、ヘルスケア領域にも注力 Appleは今回、AirPodsシリーズを刷新。「AirPods Max」のマイナーチェンジモデルと新モデル「AirPods 4」を発表した。最新のAirPods Maxは、ミッドナイト、スターライト、ブルー、パープル、オレンジの5つの新しいカラーが追加され、よりユーザーの好みに合わせた選択が可能になったほか、USB Type-C充電にも対応し、利便性が向上している。ただし、機能的には従来モデルからの大きな進化は見られなかった。 一方、AirPods 4は、AirPods Maxと異なり、従来モデルから大きく進化した。このモデルでは、上位機種のAirPods Pro 2と同じ「H2」チップの搭載により、Appleシリコンの力を活かしたインテリジェントなオーディオ体験を実現している。また、3Dフォトグラメトリーやレーザートポグラフィーなどの先進的なモデリングツールを用いて開発された新しいデザインを採用。より多くのユーザーに自然にフィットする形状を実現した。これによりAirPods 4は、Appleがこれまでにオープンイヤーデザインで作った中で最も先進的で快適な着け心地のワイヤレスイヤホンとなっている。さらに新しい音響アーキテクチャ、歪みを低減するドライバ、ハイダイナミックレンジアンプの搭載により音質面でも大幅な改良が行われている。 注目すべきは、AirPods 4では通常モデルの他にANC(アクティブノイズキャンセリング)搭載モデルが追加されたことだ。このモデルでは、従来のAirPodsと同じオープンイヤー型でありながら、周囲の騒音を効果的に低減することが可能になっている。これまでAppleのイヤホンではカナル型のAir Pods ProのみにANCが搭載されていたが、耳を密閉しないANC搭載Air Podsの登場はカナル型特有の圧迫感や疲労感に抵抗があるユーザーにとっては朗報だ。 さらにこのモデルにはAir Pods Pro 2と同じ「声を分離」機能も搭載されている。これにより、どのような環境条件でも一段とクリアな通話が可能になった。また、AirPods Pro 2の3万9800円(税込)と比べて、1万円安い2万9800円(税込)という価格面でのアドバンテージもある。これまでAir Pods Pro 2に手が出しづらかった人にとっては、AirPods Pro 2でのみ体験できたリッチな音の体験を安価で体験できる点は、買い替えや新規購入の判断材料になり得るだろう。 また、既存のAirPods Pro 2も今秋のソフトウェアアップデートにより新たな進化を遂げる。世界保健機関によると、世界では約15億人が難聴を抱えている。この課題に対し、Appleは長年にわたり様々なアプローチを取ってきた。Apple Watchのノイズアプリ、iPhoneのヘッドフォン音量、聴覚のアクセシビリティ機能、Apple Hearing Studyなどがその例だ。 AirPods Pro 2のアップデートは、これらの取り組みの集大成とも言えるもので、聴覚の健康を総合的にサポートする機能を提供する。この機能では聴力低下の予防から問題の早期発見、そして必要な補助までを一貫して行う。具体的には、AirPods Pro 2に世界初のオールインワンの聴覚健康をサポートする機能が追加される。また、科学的に実証されたヒアリングチェック機能により、ユーザーは自宅で簡単に聴力をチェックできるようになる。さらに臨床レベルのヒアリング補助機能も提供され、軽度から中程度の難聴が認められるユーザー向けに革新的な処方箋不要の補助を行う。 くわえて、本モデルには「大きな音の低減」機能も導入される。この機能では、ユーザーが聴いている音の特徴を維持しながら、大音量の騒音にさらされるのを予防する。プレスリリースによると、これらの新機能は、今秋より100を超える国と地域でAirPods Pro 2のユーザーが利用できるようになるとのことだ。このアップデートにより、AirPods Pro 2は音を楽しむことに加えて、聴覚の健康を幅広くケアするウェルビーイングなデバイスへと進化を遂げようとしている。 筆者の目には、現在のAppleが単なる消費者向けのデバイスを超えた、AI、健康管理や専門的な音声処理を含む総合的な「音のエコシステム」を構築しつつあるように映る。それだけにこのようなAppleの取り組みが今後、どのように発展し、音楽や映像、オーディオ、医療といった各業界、そして我々の日常生活にどのような影響を与えていくのか、大いに気になるところだ。音の体験価値を多方面で高めるApple製品の「音のデバイス」としての進化に引き続き注目したい。
Jun Fukunaga