実はフェイクだった有名なリンカーンの写真など、お騒がせな歴史的肖像5選
ナポレオン
統治者の肖像をプロパガンダに利用する戦略はナポレオン・ボナパルトが始めたものではないが、彼の賛美者であり画家のジャック=ルイ・ダビッドは、その技術を極めた人物と言えるだろう。 ダビッドによる肖像画『アルプスを越えるナポレオン』は1801年から1805年の間に5枚作成され、そのいずれもナポレオンが堂々たる馬にまたがり、いかにも将軍らしい装いで前方を指差す姿を描いている。肩にかかるマントは1枚ごとに異なり、馬の毛色も同じではないが、アルプスを越える皇帝の神々しさを描き出している点は一貫している。 同作は、ロシアのピョートル大帝の騎馬像などの作品を参考にしており、鑑賞者に一目でナポレオンの武勇を想起させる。ナポレオンは肖像画のためにポーズをとることを拒否し、ダビッドにこう言ったという。「偉人の肖像画が本人に似ているかどうかは誰にもわからない。天才が生きているだけで十分なのだ」 結局、ナポレオンは正しかった。ナポレオンの遺した功績が、最終的にはダビッドのような芸術家の作品による影響を受けて、事実と神話が入り混じったものになったことは間違いない。
文=Melissa Sartore/訳=北村京子