明日東京D先発デビューのマリナーズ菊池雄星に究極の科学的魔球
開幕に間に合うかーーというところだが、実のところこのチェンジアップはオフに軌道の改良を試み、一度は、完成させた球でもあった。 渡米直前、菊池は昨年からパーソナルアナリスト契約を結んでいる神事努さん(國學院大學人間開発学部健康体育学科准教授)と、「ピッチデザイン」に取り組んだ。 ピッチデザインとは、ハイスピードカメラや回転数や縦横の動きなどを計測できるトラックマンやラプソードといった測定機器を利用し、理想の軌道を作っていく地道な作業。リリースポイント、握り、手首の角度などを超えることで、ボールの軌道はどう変わるのか。投手の真後ろに設置したハイスピードカメラで撮影した映像をデータと照合しながら、求める軌道を追求していく。 2017年オフ、トレバー・バウアー(インディアンス)は、同僚のコーリー・クルーバーのスライダーの軌道を数ヶ月かけてコピーしたが、その時に試みたのがまさに、ピッチデザインだった。 菊池はといえばそのとき、チェンジアップを4シームの軌道に近づけるべく、ピッチデザインに挑んだのだそう。具体的には、同じピッチトンネルを通るかどうか。そして、通過後に真下に落ちるかどうか。指導した神事さんがこう説明する。 「日本で投げていたチェンジアップは、落ちるんですけど、球速が遅く、ピッチトンネルに入れるには、一度浮き上がる軌道だった」 修正ポイントは、軌道と4シームとの球速差ーー。 話を進める前にピッチトンネルにも触れておくと、こうイメージするとわかりやすい。例えば、2つの異なる球種が打者に向かっていく。当然、最終的に捕手のミットに収まる位置は異なる。では、リリースポイントがほぼ同じだとしたら、2つの球種はどこで枝分かれするのか。その枝分かれのポイントが打者寄りであればあるほど、打者は球種を判断する時間が限定される。 ピッチトンネルという言葉そのものを生み出し、2017年1月にその概念を紹介した米データサイト「ベースボール・プロスペクタス」によれば、打者から23.8フィート(約7.25メートル)の位置を通過して枝分かれした場合、打者にはもう球種を判断する時間もなければ反応する時間もないという。見方を変えれば、その23.8フィートの地点が、球種や振るべきかどうか、打者が判断を下す最終ポイント(コミットポイント)となる。 もちろん、球種によって球速が異なるので、コミットポイントを場所から時間に置き換え、プレートを通過する0.167秒前とする捉え方もあるが、いずれにしてもコミットポイントに輪(トンネル)があるとイメージし、そこを通り抜ける球種が多ければ多いほど、打者にとっては不利に働く。 ピッチトンネルにも詳しいバウアーによると、元々の発想は、このサイトの中で紹介されているダルビッシュ有(カブス)の映像だそう。(参照:SB NATION 「Five Yu Darvish pitches in a single GIF」;2013年4月25日)。同じようなリリースポイント、同じような軌道で打者に向かう球が、ある地点から八方に散らばる。そこにピッチトンネルの着想があったという。