明日東京D先発デビューのマリナーズ菊池雄星に究極の科学的魔球
話を菊池に戻すと、神事さんが指摘したように、日本時代のチェンジアップの軌道は、ピッチトンネルに入れようとすると一度浮き上がる。そのため、対戦を重ね、目が慣れてくれば、相手に早い段階で見極められる可能性もある。 菊池も「奥行きを使うチェンジアップも効果はある。緩急でタイミングを外せる」と話す一方で、こう認めた。 「メジャーには手元へ呼び込んで打つ打者が多いので、当てられるかもしれない」 結局は、そこに修正の原点があったわけだが、菊池は自主トレを通じて、チェンジアップの軌道を意識。その結果、渡米前にピッチデザインを行うと、1日でピッチトンネルを通せるようになった。 そのことは、2つの球種の横の動きのデータを検証することでも分かるが、神事さんは、2つの球種を真後ろからハイスピードカメラで撮影。2つの映像を重ねることでわかりやすく示した。baseballgeeks「マリナーズ菊池雄星の新球種の創り方! 感覚とデータが融合する最先端のピッチデザインとは」の映像を見るとピッチトンネルを通過したあとで、チェンジアップがストンと落ちている。 ちなみに大谷翔平(エンゼルス)の4シームとフォークも横の動きに関してはほとんど誤差がなく、相手は昨年、彼の2つの球種に翻弄されたが、菊地の場合、持ち味の高速スライダーも4シームと軌道が近いため、3つの球種がピッチトンネルを構成することとなる。 もっともこのときは、宿題が残った。 ピッチトンネルこそ完成したが、もう一つのテーマである球速差に関しては、持ち越しとなったのだ。 軌道だけでなくピッチトンネルを通るそれぞれの球の球速差が少なければ少ないほど、打者は球種の判断が遅れる。 菊池自身が指摘したように緩急を利用するのも一つの選択肢。しかし、メジャーでは高速チェンジアップの方が効果的ではないか、という判断が裏にある。 神事さんによると、昨年の菊池の場合、4シームに対するチェンジアップの球速比は86%前後だったとのこと。しかし、メジャーの平均値は91%。菊池としてはこれを「92~93%に持っていきたい」と話す。そこまで差を小さく出来れば、相手が球種を判断する余裕を奪う。 現在のところ、菊池の4シームの平均球速は92(約148キロ)~93マイル(約149キロ)なので、84(約135キロ)~85マイル(約136キロ)のチェンジアップを投げらるかどうかが目安。実は、オープン戦で85(約136キロ)~86マイル(約138キロ)のチェンジアップを投げていた菊池だが、その時は、理想とする軌道が出なかった。 「速くなると、落ちない。今は6センチぐらい。2シームに近いというか。後、ボール1個分は落としたいですね」 ここはジレンマ。抜いてチェンジアップを投げれば回転数が下がって落ちるが、球速が遅くなる。球速を優先し、人差し指に掛けて投げれば回転数が上がり、落ちる幅が小さくなる。 「もうちょっと、指を広げて投げるか…」 デビュー登板は明日3月21日の東京ドーム。間に合うかというところだが、冒頭の菊池の問いかけに、イチローはこう答えた。 「あぁ、それよく分かる。でも、シアトルへ行ったら大丈夫だよ。アリゾナが異常だから」 まずは東京で新球の手応えを把握する。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)