【密着ルポ】最後(?)のプロ野球トライアウト 野球人生を懸けた男たちの喜びと嘆き「意思表明の場。それだけでも意味があると思う」
一方、「最後かもしれない」からこそ参加したという選手もいる。台湾のスター、陽岱鋼(よう・だいかん/37歳)は21年に巨人を退団後、米独立リーグを経て、今季所属したオイシックス新潟(NPB2軍のイースタン・リーグに参加)のユニフォームで登場。第1打席でレフトへ惜しい当たりを飛ばすも、無安打2三振1四球でトライアウトを終えた。 「最後と聞いて、経験してみたくて。参加している選手がどんな気持ちなのか。誰でも出られるものではないので、出られることに感謝して出ました。その結果、4打席がどれだけ大事かあらためて感じた。これからの野球人生、日々努力して頑張ります」 この日、150キロ台を連発して最も目を惹(ひ)いた最速161キロ右腕・清宮虎多朗(せいみや・こたろう/楽天・24歳)もやはり「最後だから」という理由で参加した。 「正直、悩みました。トライアウトを受けて何が変わるわけでもないですし、NPBに戻れる可能性は限りなく低いのですが、社会人や海外などほかの可能性が広がるならアリだとも思うし。来年トライアウトがなくなっている可能性もあるし、自分の練習も兼ねて参加しました。今は受けて良かったと思っています。シーズンと違っていい状態で臨めましたしね」 結果を残しても獲得にはつながらない―もはや形骸化したといわれて久しいトライアウトだが、それでも選手たちはさまざまな理由でこのグラウンドにやって来る。 「びっくりです。練習でも145キロしか出ないのに」と驚きを隠さないのは、この日、最速151キロを出した元ロッテの島孝明。 5年前に高卒3年目で引退を決めた後、國學院大学に進学し、現在は慶應義塾大学大学院に通う26歳は「もともとは英語を学びたかったんですけど、いろいろあって」動作解析やスポーツ科学を専攻。その間は野球部どころか草野球チームにも所属していないという。 「10月ぐらいに今年が最後だと聞いたので。今年は投げてきたし、後悔のない人生にしたいので」と、タンスの奥からロッテのユニフォームを引っ張り出して参加した。 「懐かしかったですね。すっごい緊張しましたけど。スピードが出たのは、ファンの人たちが励ましてくれたおかげもありますが、勉強してきた動作解析が生きた感覚があります。上半身と下半身の捻転差をつくったり、力の出しやすい体の角度などをフォームに応用してきました」 将来はアナリスト志望ながらも、現役選手として獲得の誘いがあれば「ビジョンとか条件とか、総合的に考えて」進路を決めたいという。 ■継続に向けて問題は山積 「トライアウトって意思表明の場でもあると思うんです」 そう言うのは、高木渉(わたる/西武・24歳)。 「クビの報道が出て、応援してくれるいろんな人たちが『この選手、どうするんだろう』って思うでしょう。トライアウトに参加することで『野球を続ける意思があるんだ、良かったな』と思っていただけるのなら、自分はそれだけでも意味があると思うんですよ。 今日も一日プレーして、ほかの選手といろんな話をしました。野球の話だけですよ。みんな前向きで、楽しそうで。それだけでもね、あらためて野球っていいなって(笑)」