【密着ルポ】最後(?)のプロ野球トライアウト 野球人生を懸けた男たちの喜びと嘆き「意思表明の場。それだけでも意味があると思う」
一方、続いてマウンドに上がった中村亮太(ソフトバンク・26歳)は三好大倫(ひろのり/中日・27歳)に右前、黒川凱星(かいせい/ロッテ育成・20歳)に中前と初球を安打され、わずか2球で終わってしまった。 「地元が千葉なので『ZOZOマリンで投げられる』って喜んでいたんですけど、2球で終わっちゃいました(苦笑)。ただ、この結果だけで獲得が決まるわけじゃない。今日までしてきた練習を明日もあさってもして、来年のキャンプやオープン戦にマックスを持っていけるように。シーズン中に見てもらえていると思いますから、この結果は『うわー、ちくしょー』となるものでもないですし、トライアウトはあってもなくてもいい。今回はマリンだから受けに来て、家族も見に来てくれました。交通費の無駄になっちゃいましたけど(笑)」 ただ、シーズン中にプレーを見てもらえなかった選手もいる。佐藤宏樹(ソフトバンク育成・25歳)は今季序盤、2軍で2勝0敗・防御率1.74と好投するも、故障で5月からリハビリに専念。復帰直前に戦力外となった。 「今日はまず、戦力外から1ヵ月で投げられる状態まで持ってこれたという喜びがありました。僕みたいにリハビリ中に戦力外通告を受けてしまった選手には、今の状態を見せることができるトライアウトはありがたいです」 3年前にトミー・ジョン手術を受けた15年の広島のドラ1・岡田明丈(あきたけ/31歳)は今季は育成契約でスタート。7月に支配下登録されるも、1軍登板はなく戦力外に。この日は最速149キロ、全球ストレートで空振り三振を奪うなど、復活を強烈にアピールした。 「登板前からストレートしか投げないと決めていました。肘の不安もほとんどないし、シーズン中でもあまりないようなボールが投げられて、すごく自信になりました」 高卒4年目左腕の髙田琢登(たくと/DeNA・22歳)は春先に絶不調に陥り、夏過ぎから調子を取り戻すも戦力外に。しかし、それにもかかわらず、球団が費用を負担してオーストラリアのウインターリーグに参加できることになった。 「本当にありがたいです。それだけに何がなんでも野球を続けていきたいし、届かなかった1軍のマウンドをもう一度目指したい。 僕みたいにシーズンで力を出し切れなかった選手にとって、最後のチャンスがあるのはとても意義があること。NPBでもそれ以外でも、野球を続ける可能性が少しでも広がるなら、トライアウトという制度は本当にありがたいと思います」 ■引退から5年たった"大学院生"が...... この日、スタンドにはNPB、社会人、海外、独立リーグなどの156人のスカウトに加え、保険会社など一般企業に勧誘する人々まで集まり、選手たちに熱視線を送った。NPB在京球団のあるスカウトは言う。 「ドラフトが終わると、足りない部分を他球団を戦力外になった選手で穴埋めしていくんだけど、やっぱりシーズン中のプレーをずっと見ているから力はわかっている。 獲得に当たっても、トライアウトに出たかどうか、出たとして結果がどうだったかより、自チームの事情が優先。近年は戦力外になってもトライアウトに出ない選手が増えたし、まあ、終わるのも時代の流れかもしれませんね」