「歩く」を楽しむ社会に、動力不要で人の歩きを支援する機構を名工大などが開発
しかし、長年、さまざまな講演や発表を通して、その下半身だけの受動歩行ロボットの動画を見ていた佐野教授は、受動歩行ロボットの腰部に設置し、脚が動いた際にその反動でカムがぶれない役目を持った重りが、歩くたびに上下する動きに意味があるのではないかと考えるに至り、調査を開始。このわずかな上下運動が実は受動歩行に重要な役割を果たしていることを突き止めたという。2014年のACSIVEの製品化から実に10年の歳月を経て、受動歩行に関する新たな原理が見つかったこととなる。
■歩くという動作と密接なかかわりを持つ上下運動 歩行に上下運動が伴うというのは、実際に歩いてみると腰の高さが一定ではないために直感的に理解できる動きであるといえるだろう。では、この上下運動を歩行の支援に使えないか? そう考えた佐野教授らの研究チームは、上下運動で生じる重りが揺れる運動を本人に伝達する仕組みとして、稲穂の如くしなやかな円弧状のピアノ線を介して脚と連動させた「稲穂型歩行支援機」を考案したという。
具体的には、腰の後方に背中からある程度の距離を空けて重り(慣性体)を搭載するハードポイントを用意。腰部にはそのハードポイントを止めるアタッチメント部がベルトやズボンに差し込む形で用意され、かつ膝部のバンドとたわんだ状態のピアノ線を結ぶ役割を担っている。この腰部のアタッチメントと重りのハードポイント部の間は体形に応じて伸び縮みが可能なスライド機構でつながっており、ヨー軸/ロール軸の回転機構を装備しているほか、アタッチメント部にピッチ軸が備えられている。
この構造により、歩き始めると重りが上下に揺れ(前に進む際に沈んだ位置から浮き上がる位置に移動)、その振動に併せてピアノ線がたわみ、元に戻ろうとする動的な動きが生み出されることとなる。ちなみに重りは数百gほどが適当で、歩いていると重りの負荷を感じない。試作機ではモバイルバッテリーがちょうどよい重さとして採用されたという(重さで言えば小型のペットボトルとかでも良い。あくまで重さが重要であり、電気を動力に活用するといったことではない点に注意が必要である)。