小説家・山内マリコが振り返る「自身のキャリア」 「作家は信用商売。書いてきたものは裏切らない」
ひたすら迫ってくる雑誌の締め切りに身を削られ、時間を奪われ、小説に集中したいと思いつつ無理をしつづけ、コントロールが利かなくなって。17~18年くらいから、徐々にスランプ期に入っていきました。
――スランプはどのくらい続いたのですか。
山内:4~5年くらいですかね。小説を書いても書いても、及第点を出せるものにならなくて、自分でボツにしていました。抜け出すきっかけになったのは、「すべてのことはメッセージ 小説ユーミン」(マガジンハウス)。ユーミンのデビュー50周年記念でオファーをいただいたので、締め切りは絶対厳守。そのプレッシャーのおかげで、難航していた「一心同体だった」を書き上げられてスランプも脱出、いい流れで「小説ユーミン」に取り組めて、プロとして一山超えられたと思いました。
私は新人賞をとってから単行本デビューするまでが長くて、ネグレクト状態だったその時期に、自分の作品を客観的に、批評的に見て、一人で黙々とブラッシュアップしていく力をつけていきました。だから自分が「手のかからない作家」であることを、ずっといいことだと思っていたんです。でも、もう少し編集者さんに頼ったり甘えたりできていれば、スランプがあそこまで長引かなかったかもしれない。そういうところも、キャリアや年齢に応じて、変えていかなきゃいけないかもなと思います。
――作家として、SNSとの付き合い方については、どう考えていますか。
山内:SNSでずばずば発言して知名度を上げて、ついでに上手に宣伝している作家さんを見ると、素直にうらやましいです。昔は、作家は意見や態度を表明できる特権的な立場にいたけれど、今は逆に、その立場のせいで言えないことが多くなったり、むしろ匿名の人たちの方がよっぽど自由に発信していますよね。
ただ、12年間、作家を続けてきて思うのは、これは信用商売なんだってこと。時間をかけて生み出した作品によって、読者さんの信頼を積み上げていく。1作1作、手に取ってくれた人に、「ああ、この作家の小説をもっと読みたい」と思ってもらえる本を書いていくこと。自分の内側から出てくるものを真摯に書く。小説もそうですが、雑誌に掲載されるエッセイでも、力を抜かずに全力で書く。そうやってせっせと信用を積み上げて、読者さんを少しずつ増やしてきたと思っています。