小説家・山内マリコが振り返る「自身のキャリア」 「作家は信用商売。書いてきたものは裏切らない」
最も有名なアイコンを今の文脈で語り直すことは、インパクトがあって、メッセージが伝わるスピードも早い。有名であればあるほど有効なんです。「マリリン・トールド・ミー」をきっかけに、本当のマリリンを知りたいと思ってくれる人が増えたらうれしいですね。
文学をかっこいい若者カルチャーにしたかった
――山内さんはデビュー作の「ここは退屈迎えに来て」(2012年、幻冬舎)の時から、女性同士の友情や連帯を書き続けていますね。
山内:「ここは退屈迎えに来て」が出たのは、もはや一昔前の時代ですね。女の子たちが中心の友情物語にしたかったのですが、最初に原稿を見てくれた編集者さんからは、「恋愛小説を書いてほしい」とストレートに言われてしまい、アドバイスを受けて、全ての短編に共通して“椎名”という男の子が登場する連作になりました。各短編の中身は、女の子の友情なんです。ただ見え方としては、好きな男子を巡る話という構成になっていて、ちょっとねじれています。
結果的にその構成はすごくほめられたのですが、中心に椎名への恋愛感情を据えたことで、人によってはタイトルを、女子が男子に向かって言っている、さも王子様を待っているような言葉と解釈されるみたいで。そういう感想を聞くたびに、ああ、あれは過渡期の作品だったなぁと感じます。
私としては、大学卒業後に離れ離れになった親友とよく言い合っていた言葉をイメージしているので、あれは女の子が女の子に向けて、迎えに来てよって言っているつもりなんです。22年に出した「一心同体だった」では、シスターフッドの物語を全力で書ける時代になり、デビュー作での悔いを全部やり切りました。
――デビュー前、小説家という職業については、どう捉えていましたか。
山内:なりたいものの一つではあったんですが、恥ずかしくてなかなか公言できなかったです。小説も好きだし、映画も好きだし、写真家にも憧れていて。なりたいものだらけでした。挫折をくり返して、最終的に本腰を入れて目指したのが小説だった。結果的に、自分に一番向いている職業だったと思っています。