小説家・山内マリコが振り返る「自身のキャリア」 「作家は信用商売。書いてきたものは裏切らない」
そのことを上野さんに話したら、「あら、じゃああなた、それまで幸せだったのね」って(笑)。女性がフェミニズムに目覚めるのは、女性であることの困難にぶち当たった時なんですよね。人は不幸になってはじめて、ちゃんと考えようとするわけで。ということは今20代の人たちが、フェミニズムをはじめ社会の悪しき構造にも問題意識を持っているのは、それだけ困難な目にあっているからだと思うんです。
ただ一つ思うのは、コロナ禍でかなわなかったこともたくさんあるけれど、それによって社会の問題に目を向けるようになり、学ぶ機会が増えたのだとしたら、それは一生ものになる貴重な財産だということです。
――勉強の話でいうと、多様な価値観に触れていく主人公が<なんだか学習させられてるAIみたいだ>と感じる描写があって、確かに今の時代、自分の感情よりも先に、例えば「今の発言、SNSで炎上しそうだな」というような、外部に審判を求めてしまう傾向があるなと感じました。
山内:SNSを見ている人たちの間で、炎上判定をする超自我みたいなものが形成されて、その共通感覚が育ったことで、社会の価値観がここ数年で大きく変わったんじゃないかなと感じています。Xのポストを見て、答え合わせする感覚というか。
杏奈は最初のうち、SNSの意見をつまみ読みしたり、人の顔色をうかがったりする中で築いた、あやふやなジェンダー観しか持っていません。マリリンに興味を持ち、本を読むことで、もっと耐久性のある考えを持てるようになります。外部に審判を求めるだけじゃない、自分で考えることのできる人間に成長させてくれたのが、マリリンなんです。
マリリンはアイコンとして超有名だけど、誤解され続けてきた存在
――マリリン・モンローについては、本作を書く前から興味を持って調べたりはしていたのですか。
山内:「お熱いのがお好き」や「紳士は金髪がお好き」は観たことがある程度でした。あとは、不幸な生い立ちだったとか、実は読書家だったというくらい。ただ、なにかありそうだなと、直感が働いたというか。