小説家・山内マリコが振り返る「自身のキャリア」 「作家は信用商売。書いてきたものは裏切らない」
最初は「あの時代にもっとフェミニズムが根付いていたら、マリリンも救われたかもしれない」と思ったんです。ところが調べていくうちに、むしろ逆なことが分かりました。「マリリン・モンロー 瞳の中の秘密」という2012年製作のドキュメンタリーでは、マリリンは性革命の急先鋒だったとして、彼女がいたからこそフェミニズムが生まれたんだとまで言っていて。やっぱりフェミニズムの文脈で語られるべき存在だったと、すぐに確信しました。
――マリリンのどういったところで、そう感じたのでしょう。
山内:決定的なのは、雑誌に性被害を告発する文章を寄せているところです。映画界は黎明期から「キャスティングカウチ(セックスに応じた相手に役を回すこと)」という隠語があるくらい、権力を持つプロデューサーが女優を性的に搾取していた業界。マリリンは、17年の#MeTooの先駆けをたった一人でやっていたんです。また、セクシーなステレオタイプの役しか回さない映画会社に反旗を翻して、撮影をボイコットして訴訟を起こし、独立プロダクションを作るなど、精一杯の抵抗をしています。これは現代の芸能界に置き換えて考えても、すごい行動力。
マリリンが望んでいたのは、質の高い文芸作品に出ること。そして、真っ当な給料を払ってもらうこと。実はマリリンが結んでいたのは、奴隷契約に等しいものだった。不当な給料で働かされていることに声をあげた点なども、とても現代に通じると感じました。
――時代を超えて再びスポットを当てるということでいえば、山内さんは、柚木麻子さんと共同で責任編集を務めた19年の「エトセトラ VOL.2 特集:We LOVE 田嶋陽子!」号を象徴とする、令和の田嶋陽子ブームの仕掛け人でもあります。
山内:90年代にテレビを見ていた人なら、田嶋陽子さんといえば、男性論客を相手に怒っているフェミニストという、ちょっとネガティブなイメージでした。ところが、「愛という名の支配」というご著書を読んだら、素晴らしく明晰な、フェミニズム入門に最適な本で。この本をみんなにも読んでもらいたい、田嶋先生の誤解されたイメージを刷新したいという気持ちで、特集をぶち上げました。同じ時期に新潮文庫の編集者さんがこの本を復刊させてくれたこともあり、カムバは大成功(笑)。