小説家・山内マリコが振り返る「自身のキャリア」 「作家は信用商売。書いてきたものは裏切らない」
私は大学時代に同性の親友と出会ったことで、大げさに言うと、今の自分になれました。それで、女性同士の友情は異性愛にも負けないくらいすごいんだっていうことを、物語に書いてきたわけです。そのテーマが作家としてのモチベーションであり、旧弊な社会への挑戦でもあったので。
だけど、コロナ禍で大学生活を送った世代は、授業はリモートで2年間ずっとキャンパスにも行けず、出会いもなく、友達をつくること自体が難しくなってしまった。そんな彼らに、安易に親友を礼賛するような物語は通用しない。そもそも、友達がいないからダメってわけじゃないし、もうこの世にいない人とだって、交流を深めることはできるはず。そういう形での救いこそ、書く意味があるんじゃないかと思ったんです。
現代の若者たちが手にした、「学び」という財産
――本作は山内マリコ作品では初めてと言っていい、ファンタジーな物語ですよね。
山内:確かに、60年前に死んだマリリンから電話がかかってくるというシチュエーションは、幻想的というか、いつも書いているリアリティーラインとは違いますね。でもコロナ禍で私たちが経験したことって、「まさか現実にこんなことが起きるなんて!」というような世界線でした。なので、そこまで突飛なアイデアのつもりもなく、「そういうことも起こり得るかもしれないな」と思って書いていました。
――大学生の登場人物たちが、みな理知的で勉強熱心なところも現代っぽいなと感じました。
山内:大学生を描いた物語なのに、遊んだりするような場面は全然なくて、図書館で文献を読んだり、ゼミで討論するシーンが多いなんて、一昔前だったらかなり異色だったと思います。でもこれが、今のリアルなのかなって。
私個人は、大学生のころはフェミニズムについて何も知りませんでした。年齢を重ねていく中で女性としての当事者性がより強くなって、違和感を持つようになり、アラサーのときに上野千鶴子さんの本を読み、頭を殴られるようなショックを受けて開眼しました。