小説家・山内マリコが振り返る「自身のキャリア」 「作家は信用商売。書いてきたものは裏切らない」
小説家・山内マリコの最新作「マリリン・トールド・ミー」(河出書房新社)は、1950年代に活躍した映画スターのマリリン・モンローをモチーフに、コロナ禍に大学生活を送る大学生が主人公。70年の時を経て、今なおセックスシンボルとしてのイメージが強いマリリンを、フェミニズムの文脈で捉え直した意欲作は、どのように生まれたのか。また、自身のキャリアも振り返りながら、作家としての歩みをたどる。 【画像】小説家・山内マリコが振り返る「自身のキャリア」 「作家は信用商売。書いてきたものは裏切らない」
――最新作「マリリン・トールド・ミー」で、マリリン・モンローをモチーフにした経緯は?
山内マリコ(以下、山内):きっかけとしては、1970年代からウーマン・リブ運動をけん引する田中美津さんの「いのちの女たちへ―とり乱しウーマン・リブ論」という本です。今読んでも言葉がキレッキレ。ただ、マリリン・モンローに触れた箇所は、従来のセックスシンボル的な書かれ方で、小さな疑問と興味を持ちました。
マリリンについて調べてみると、1962年8月5日に亡くなったあと、入れ替わるように時代が変わり、アメリカの女性たちの間にウーマンリブが芽生えだすんです。もし、マリリンがもう少し長く生きることができていたら、フェミニズムに救われたかもしれない。少なくとも、“セックスシンボル”という搾取的なイメージではなく、もう少しリスペクトされる存在だったのではと。生前の言動からして、フェミニズムアイコンにイメージが塗り替わった可能性だって充分ありえたと思えました。
――時代を超えてマリリンと出会う本作の主人公・瀬戸杏奈は、現代のコロナ禍に大学へ通う学生です。
山内:この小説は、コロナ禍真っただ中だった2022年の「文藝」に寄稿した短編がもとになっています。その号の特集テーマが「怒り」だったんです。今、怒りの感情を抱いているのは大学生だろうな、と。そこで、マリリンのことを書きたいという気持ちと、怒りというテーマが結びついて、主人公の造形ができました。