マティスの色彩と光を体感できる展覧会へ|青野尚子の今週末見るべきアート
「〈ヴァンスのロザリオ礼拝堂〉では、通常、東側に設けられることが多い祭壇が西側に配置されるなど、教会建築のセオリーからははずれています」(米田さん)
その意味では前例のない礼拝堂だ。祭壇の、切り紙絵をもとにしたステンドグラスは『生命の木』がモチーフになっている。陶板による壁画はドメニコ会を創始した「聖ドミニクス」、「聖母子」、イエスが十字架にかけられるまでの受難の数々を描いた「十字架の道行」の3点だ。 会場に設置された〈ヴァンスのロザリオ礼拝堂〉内部原寸大展示では、1日を3分に縮めて太陽の光の移り変わりを再現している。会場ではステンドグラスからの光が礼拝堂の内部を少しずつ動いていく様子も体感できる。 「マティスはステンドグラスから内部に差し込む光を、『色彩―光線』という言葉で表現していました」(米田さん)
「ステンドグラスの青、緑、黄色は正確に言えば使用されたどの色でもなく、それらのハーモニーの、つまりそれらの相互関係のいきいきした産物である一つの光を内部で作り上げています。この色彩―光線は(略)(ステンドグラスと向かい合った壁画の)白い面の上で戯れるようにしつらえてあります。(略)堂のサイズが小さかろうと、ぜひとも限りない空間の印象をあたえなければならないわけです。」とマティスはいう(『マティス 画家のノート』二見史郎訳、みすず書房/1978年より引用)。
〈国立新美術館〉の「マティス 自由なフォルム」展示会場は〈ニース市マティス美術館〉よりもかなり大きく、より多くの作品を展示することができる。司祭が着るカズラ(上祭服)のためのマケットなど、これだけの数が一堂に並ぶのは初めて、というものもある。マティスがニースの光を東京に連れてきたかのような展覧会だ。
『マティス 自由なフォルム』
〈国立新美術館〉企画展示室 2E 東京都港区六本木7-22-2。~2024年5月27日。10時~18時(毎週金・土曜は20時まで。入場は閉館の30分前まで)。TEL 050 5541 8600(ハローダイヤル)。一般 2,200円ほか。
photo_Shin-ichi Yokoyama text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano