マティスの色彩と光を体感できる展覧会へ|青野尚子の今週末見るべきアート
マティスが手がけた〈ヴァンスのロザリオ礼拝堂〉が東京にやってきました。礼拝堂内部の原寸大展示のほか、建築と呼応する大作《花と果実》など、見逃せないポイントが満載です。 【フォトギャラリーを見る】 晩年を南仏ニースで過ごしたアンリ・マティス。彼とその相続人はニース市に絵画、彫刻などを寄贈する。そのコレクションを中心として1963年に〈ニース市マティス美術館〉が開館した。『マティス 自由なフォルム』は〈ニース市マティス美術館〉のコレクションを中心に150点以上を展示する大回顧展。「切り紙絵」を中心に巨匠の生涯をたどることができる。
展覧会は初期のマティスが色彩へと向かっていった軌跡「色彩の道」から始まる。このセクション1では《マティス夫人の肖像》や点描で描かれた《日傘を持つ婦人》に注目したい。「マティスは色彩によって空間や奥行きを表現できないか、と考えていました」と国立新美術館主任研究員の米田尚輝さんはいう。 たとえば《マティス夫人の肖像》では顔のオレンジ色と背景の緑色は、右半分と左半分で色調が異なっている。この色の違いは奥行きの違いを表している。印象派の画家たちが光を色で表現しようとしたのとは違うアプローチだ。
この展示室に並ぶ《ダンス》は円筒形の木彫だ。円筒の周囲には同名の絵画《ダンス》に似た人物像が彫刻されている。 「円筒だから模様の横幅において終わりはありません。それは循環するようなものです」(米田さん) マティスは後に〈ヴァンスのロザリオ礼拝堂〉について「大事なのは(略)非常に限られた面によって無限の広がりの感じを与えることです」と述べている(『マティス 画家のノート』二見史郎訳、みすず書房/1978年より)。マティスが絵画と空間の関係性について、さまざまな角度から考えていたことがうかがえる。
〈ニース市マティス美術館〉はマティスの作品だけでなく、画材や彼のアトリエに残されていた椅子なども所蔵している。セクション2「アトリエ」には蚤の市などで購入したであろう、貝をモチーフにした肘掛け椅子や三日月のついた火鉢、それらを描いた絵画などが展示されている。