「3分間だけ時間をください」トゥレット症の僕を変えた授業前のスピーチ
トゥレット症は、自らの意思に反して声が出たり、身体が自然に動いたりしてしまう疾患だ。2019年のAbemaTV出演で話題になった酒井隆成氏も、トゥレット症の当事者の一人。持病のせいで周囲からあらぬ誤解を受けやすく、大学入学後には孤独を感じていたという。そんな酒井氏が、現状を打開するために実施した「3分間スピーチ」で語ったこととは?※本稿は、酒井隆成『トゥレット症の僕が「世界一幸せ」と胸を張れる理由』(扶桑社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 大学での新生活で孤独感が募るばかり 最初は病気を上手く説明できなかった 高校受験を経て、大学生活がスタートしたものの、実は大学に入ってしばらくの間、僕はずっと孤独感を抱えていました。 というのも、高校までと違って、受ける講義も、講義の場で出会う学生も多いので、1人ひとりとそこまで深く知り合いになる機会がなく、なかなか友達ができなかったからです。 高校時代までであれば、「僕にはこういう病気があって……」と説明することが親交を深めるひとつのきっかけになっていました。でも、大学では人によって受ける講義が違うせいなのか、友達と一緒にいるときは、基本的には楽しい話しか求められていない雰囲気があり、なかなか大学では自分の話をする機会を作れず、病気のこともうまく説明できないままでした。 また、大学では「じっくりと深い話をすること」よりも「ノリが良いこと」が求められていたことも、友達ができない要因だったかもしれません。 たとえば、その場にいるクラスメイトたちの間で、どこかに出かける話が盛り上がったとします。でも、電車に長時間乗るような場所の場合、僕が行けばみんなに迷惑をかけてしまう。行きたい気持ちはあるけれども、「僕は病気だから行けない」と言うと、「あいつはノリが悪いなぁ」とその場がしらけてしまいます。
また、一度断ったら、もう二度と誘われることはありません。 そんな事情もあり、病気のことを説明したくても、理解してくれる人を見つけたくても、そんな話ができる友達はなかなか見つかりませんでした。 また、ほかの学生から「あの人は怖い」と思われがちだったのも、友達作りのハードルのひとつになっていました。大学に入っても、相変わらず、突然のチック症が出ていた僕は、知らぬところで目立っていたようです。 何の予備知識もなく受けに来た講義で、突然叫んだり動いたりする人がいたら恐怖感を抱くのは当然のことです。 担当の先生からは、周囲の子たちから「酒井君はなんだか怖いし、よく叫ぶからうるさい」という話が上がっていると心配され、「どうしたらいいんだろう……」と本気で悩むようになりました。 ● 「3分間だけ時間をください」 の一言が僕を変えた しかし、悩んでばかりはいられません。 孤立するこの状況を何とか回避するため、僕が思い出したのは、小さいころに自分の病気を積極的に説明していた自分の姿でした。 仮に友達ができなくても、まずは周囲の生徒たちに自分がどんな人間かを知ってもらう必要があるのではないか。なぜ、身体が動いてしまうのか。なぜ、声が出てしまうのかを、知らせておこう。