「グッドスマイルの復帰を願っていた」とメルセデスAMG責任者。3週連続24時間レースには「胸を痛める」
クリスマスのホリデーシーズンを前に、メルセデスAMGモータースポーツのカスタマー・レーシングの年末恒例大イベント『Champions United』がAMGの本社があるドイツ・アファルターバッハで行われた。 【写真】メルセデスAMG・チーム・グッドスマイルの00号車メルセデスAMG GT3(2019年鈴鹿10時間) 同イベントを前にしたメディア懇談会では、AMGモータースポーツ代表のクリストフ・セグミュラーが取材に応えた。2024シーズンの総括、そしてWEC/ル・マンへの挑戦が控える2025シーズンについて、話を聞いた。 ■ダービッド・シューマッハーとは契約解消 ──2024年のシーズンはAMGにとってどんな一年だったのでしょうか。 セグミュラー:強豪自動車メーカーがひしめく中で勝つことは必ずしも容易ではないが、昨年に続き非常に成功裡に終わったシーズンとなった。とくに、今季最後のハイライトといえるマカオFIA GTワールドカップでの優勝は、他車のアクシデントによってもたらされたものとはいえ、必ずしも我々にとって有利なBoP(性能調整)ではなく、レースウイーク中は非常に苦しいコンディションだったこともあって、素直に喜ばしいものであった。メルセデスAMGにとって6度目のマカオGP優勝を勝ち取った日でもあった。 GTワールドチャレンジやインターコンチネンタルGTチャレンジといった、世界やヨーロッパでの非常にエキサイティングなトップレベルのGT3シリーズだが、そんな中でも多くの場面で同じ地元シュトゥットゥガルトのポルシェと激しいバトルを戦っているのがとても興味深く、世界のGT界のトップにドイツのマニファクチャー勢が名を連ねているというのもドイツの自動車業界の誇りである。 ──2025年に向けての目標は? セグミュラー:来年の目標も可能な限り『勝つ』以外はない。とくニュルブルグリンク24時間レースはAMGというブランドにとっても非常に大きな意味を持つとあり、総合優勝奪回を狙う。ノルドシュライフェで数多くの量産車が開発テストを重ねているだけに、とくにドイツメーカーにとってはここで勝つことがどれだけ大きな意義や意味を持ち、そしてどれだけ困難なことかを誰もが知っているのだから、特にニュルは大切な一戦だ。 北米のIMSA、ヨーロッパをはじめ世界中の数多くのレースにメルセデスAMGを駆って参戦するプロ・アマ問わず数多くのドライバーが、AMGのブランドを背負い、高いモチベーションを掲げて戦っている。2025年も互いに強いタッグを組んで数多くのポイント、表彰台、勝利を来年も重ねられるように努める。我々AMGファミリーにとっては、2025年も『退屈』という言葉はないだろう。 ──2025年はいよいよ待ちに待ったル・マンへ復帰されますね。 セグミュラー:ル・マンへ26年ぶりに参戦することは、メルセデス・ベンツにとっては新たなヒストリーが始まることを意味する。AMG GTのポテンシャルは充分にいままでのレースで発揮できているだけに、26年ぶりの参戦だがLMGT3クラスでの優勝を狙っているのは言うまでもない。それほどに強い意志とポテンシャルを持って、ル・マンへ挑むつもりだ。 ──10名のパフォーマンスドライバーの発表がありました。 セグミュラー:BMWからマキシム・マルタンが加入し、育成ドライバーからはラルフ・アーロンが昇格(※弟はFIA F2に参戦するポール・アーロン)し、2名のニューフェイスが加わる。アルジュン・マイニは他メーカーへ移籍し、育成ドライバーであったダービッド・シューマッハーは父のラルフとの話し合いの上、契約解消となった。 過去にさまざまな経験を積んだベテランから若手のドライバーまで、よいミックスとなっている。ワンドライバー制のDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)以外のシリーズでは、複数のドライバーと組んでのチームワークが必要となるので、たとえどんなコンディションであってもチームメイトと同じレベルで戦えること、それぞれの長所や強さ、キャラクターが明確であることも選考の基準となっている。 また、パフォーマンスドライバーをカスタマーチームの要請で派遣する際にも、それぞれの特徴を活かし、チームに貢献出来るよう心掛けている。 (※筆者註:ルーカス・アウアーは2025年のドライバーラインアップの発表時には、契約内容についての話し合いの途中だったために発表されていなかったが、引き続きパフォーマンスドライバーの一員として継続して活動するという) とくにフランスメディアから何度も質問が寄せられるので、ここで明確にしておきたいのだが、ジュール・グーノンはアルピーヌの正ドライバーではなく、AMGで100%本契約しているドライバーだということを改めて周知しておきたい。AMGとアルピーヌ側では友好的な話し合いの末の契約で、両社の目標は完全に一致しており、トラブルもない。 現在30歳のグーノンはドライバーとして最も脂がのっている時期で、彼がGTだけではなくハイパーカーへ挑戦したい、ル・マン24時間レースで総合優勝をしたいという強い夢を理解し、AMGは全力で応援している。前後の準備や長距離の移動も考慮しつつ、彼のスケジュールを組んでいる。グーノンには数多くのGTレースも控えているだけに、それらのスケジューリングは必ずしも容易ではないが、彼がGTでもハイパーカーでも充分なパフォーマンスを発揮してくれるために、AMGとアルピーヌが良好な関係を保つことも重要だ。 ■新型GT3車両は「精力的に」開発中 ──一旦はコロナ禍で滞っていた新型GT3の開発状況が非常に気になるところです。 セグミュラー:まだ正式に何年にデビューとは発表できないのだが、実際には精力的に開発が行われている。2019年末に発表となったEvoから5年が経過しているが、いまも他のメーカーと比較して戦闘力が劣っているとは思わない。したがって、次のGT3が完成するまでの間にはアップデートは施さず、現状のままで投入することになる。 ──2025年には6年ぶりにグッドスマイル・レーシングがスパ24時間レースに復帰することに、日本のファンも沸いています。 セグミュラー:新型コロナウイルスの感染拡大防止策により、我々AMGは、グッドスマイル・レーシングがスパにいち早く復帰することを願っていただけに、2024年内早々の参戦表明を非常に喜ばしく思う。世界最強のGT3マシンのみのスパ24時間レースは、AMGの全チームと団結してより多くのチームがポディウムに立ち、また総合優勝を飾れるよう努力したい。 ──2025年6月は前代未聞の3週連続24時間耐久レース開催となり、ドライバーもチームも本当に大変なスケジュールになりそうです。 セグミュラー:1戦だけでも充分に過酷だが、ル・マンに始まり、ニュルブルク、スパという3週連続は、スケジュールが発表されてから戦々恐々だった。とくにサポートエンジニアやITスペシャリスト等の人員の確保も必要となってくる等、多岐分野……場合によってはドライバーも不足する可能性があり、補充をしなければならないこともあるだろう。 とくにニュル24時間は、ブリティッシュGTとIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権のワトキンス・グレンとバッティングしており、とりわけメーカーとしても対応に追われるところだ。AMGだけではなく、ほぼすべてのGT3メーカーに関与するだけに、横のつながりで他メーカーのトップらと情報交換を何度も行っている。 ヨーロッパ三大24時間レースが一気に押し寄せる6月だが、AMGとしての優先順位はなく、この3つの24時間レースはそれぞれがまったく異なるキャラクターを持つだけに、それぞれの戦略や対策も勝利を導くカギとなるはずだ。 とくにヨーロッパではこの三大24時間レースを現地参戦することを非常に楽しみにしているファンが数多くいる。夏休みでもない6月に、3週間に渡って仕事や学校を多く欠席することはほぼ不可能な上、短期間にこれらのレースのチケット代金や遠征費の出費は非常に厳しいということも承知している。それだけにモータースポーツを愛してやまないファンが現地観戦を断念せざるを得ない状況になってしまうことに、とても胸を痛めている。 2025年の年明けはドバイ24時間からデイトナ24時間、そしてWECの開幕戦(2月)へと続くとあり、AMGワークスは束の間のクリスマスホリデーを家族や友人とゆっくりと過ごし、新たなスタートに備えるつもりだ。 [オートスポーツweb 2024年12月30日]