Jリーグ・優勝争いで生まれた“オフサイド疑惑”が残したVAR運用への課題。求められる再発防止策とは?
VARのアングル不足にどう対処する? 海外では「保険」として映像の導入も
それでも、トータルで10回を数えた今シーズンのレフェリーブリーフィングを、内容的にも非常に有意義だったと総括した扇谷委員長は、同時にこんな言葉も残している。 「ここでのやり取りが記事になって審判員が誹謗中傷を浴びる、という事態になれば、私としてはブリーフィングをするつもりはいっさいありません。そうなるのであれば、申し訳ないですけれども、私はレフェリーを守ります。ただ、みなさんがここに参加して、レフェリーはあらためて難しい、という点を含めて、いろいろなことを理解していただいていると私は確信しています」 報じる側としてもヒューマンエラーを必要以上にクローズアップして、ネット上における誹謗中傷を煽ろうという意図はもちろん持ち合わせていない。シーズンを通して素晴らしい戦いを見せてくれた神戸の優勝にケチをつけるつもりもないが、それでも今回の一戦のように物議を醸した事象を「難しい」のひと言で総括してしまえば、長い目で見ればサッカー界全体の信頼喪失につながりかねない。事実関係をメディア側としっかりと共有し、質疑応答のなかで再発防止策を探るべきではなかったのか。 今回のレフェリーブリーフィングでは、こんな質問も飛んだ。DAZNの番組で用いられたスカウティング映像を、緊急時にはVARでも使えるように現状の運用制度を再考できないものなのか、と。 前出の家本氏も番組のなかで「海外のリーグでは、保険として導入していると聞いたことがある」とスカウティング映像に言及している。しかし、ここでも東城審判マネジャーは歯切れが悪かった。 「例えばワールドカップはカメラの台数がもっとたくさんある。そうするとオペレーターも増やさなければいけないし、当然、お金の話にもなってきます。現状で最大12台のカメラを入れられるなかで、どのアングルにするか、というのはわれわれとJリーグ側との間でいろいろと話をさせていただいています。もちろんわれわれが要求をすべて通す話でもないですし、もちろんベース(の運用制度)という部分もあるので、いまの時点で何かを変えるとか、何かを入れるという話はできないので」 人間の能力を超えた判断をテクノロジーでサポートするために、日本サッカー界では2021シーズンからVARが本格導入された。そのなかで今回は映像を取り込むカメラのアングル不足という想定外の事態が、科学の目をも閉ざさせてしまった。しかし、それを補える保険的な手段が目の前にあっても、なかなか簡単には動けない。後味の悪さと課題とを残して、2023シーズンが終わりを告げた。 <了>
文=藤江直人