Jリーグ・優勝争いで生まれた“オフサイド疑惑”が残したVAR運用への課題。求められる再発防止策とは?
日本サッカー協会(JFA)の審判委員会がメディア向けに行うレフェリーブリーフィングで、11月12日の明治安田生命J1リーグ第32節・浦和レッズ-ヴィッセル神戸戦でFW大迫勇也が決めた決勝点を巡る見解が明らかになった。DAZNの「Jリーグジャッジリプレイ」で元国際主審の家本政明氏がオフサイドという見解を示した中、Jリーグ担当統括を務める東城穣JFA審判マネジャーが出した結論とは? 誤審が認められた前例とともに、「VARのアングル不足」に対する再発防止策を考える。 (文=藤江直人、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)
賛否両論飛び交った「疑惑のゴール」が生まれるまで
短い時間のなかでかわされた質疑応答で、同じ言葉が何度も繰り返された。 日本サッカー協会(JFA)の審判委員会は、定期的にレフェリーブリーフィングを開催している。Jリーグの試合におけるさまざまな判定を取り上げ、審判員を統括する同委員会側の説明や質疑応答を介して、メディアとの間でルールやレフェリングに対する理解を深める場だ。 そして、今シーズンの最後となる10回目のレフェリーブリーフィングが今月8日に、東京・文京区のJFAハウスで行われた。シーズン全般の振り返りや総括がテーマとされたなかで、スタートから1時間半近くが経過した最後の段階になって、具体的な試合に関する質問が飛んだ。 質問の対象となったのは11月12日に埼玉スタジアムで行われた、浦和レッズ-ヴィッセル神戸の明治安田生命J1リーグ第32節。後半アディショナルタイム6分に決まったFW大迫勇也の劇的な決勝ゴールで神戸が2-1で勝利し、悲願のリーグ戦初優勝へ王手をかけた一戦だ。 ただ、このゴールに対しては直後から「オフサイドではないか」という疑問が持ち上がった。観戦者が撮影した証拠とも言える映像がネット上で拡散され、賛否両論が激しく飛び交う事態に発展した。しかし、公式アナウンスがないまま最後のレフェリーブリーフィングを迎えていた。 浦和-神戸に関する質問は約7分間で8件を数えた。そして、審判委員会のJFA審判マネジャーで、Jリーグ担当統括を務める東城穣氏は、8回にわたって「難しい」という言葉を繰り返している。 このやり取りを振り返る前に、大迫のゴールが決まるまでの経緯をあらためて記しておきたい。 勝たなければ優勝の可能性が完全に消滅する浦和は、後半アディショナルタイム1分にFWホセ・カンテのゴールで追いつき、さらに敵陣の右サイドで直接FKを獲得した。キッカーにはMF中島翔哉が立ち、奇跡の逆転ゴールを狙って、GK西川周作も神戸ゴール前へ攻め上がった。 しかし、中島のキックは飛び込んだ西川の頭に合わない。ジャンプしながらボールをキャッチした神戸の日本代表GK前川黛也が、すかさず左前方に残っていた大迫へパントキック。これをしっかりと収めた大迫が放ったロングシュートが、無人と化していた浦和のゴールへ吸い込まれた。 攻防がめまぐるしく行き交ったなかで生まれた劇的なゴールに、なぜオフサイド疑惑が投げかけられたのか。西川が攻め上がったこの場面ではハーフウェイラインがオフサイドラインとなり、前川がパントキックを放った瞬間に、大迫がすでにラインを越えていたと指摘されたからだ。もっとも、この場面ではVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)のチェックに時間を要することはなく、すぐに再開された試合はそのまま神戸が2-1で逃げ切った。