隠されてきた「谷落とし」 阿部詩、衝撃の敗戦の裏に―柔道
衝撃の敗戦だった。 パリ五輪の柔道女子52キロ級で、連覇を狙った阿部詩(24)=パーク24=は2回戦でディヨラ・ケルディヨロワ(ウズベキスタン)に一本負け。放心状態で泣き崩れた。「最大の番狂わせ」とも言われた一戦の裏に何があったのか。データ分析の側面から浮かび上がってくるものがある。 【選手プロフィール 】阿部詩(あべ うた) 柔道 試合開始から3分すぎ。阿部詩は技ありのポイントでリードしていたが、横につかれて背中を取られると後方に引き落とされる。「谷落とし」で畳にたたきつけられた。個人戦で外国選手に敗れるのは実に2019年以来だった。 全日本柔道連盟では事前に過去142試合のケルディヨロワの映像を分析していた。担ぎ技が約7割を占める中、捨て身技の「谷落とし」でポイントを奪ったのは返し技による1度のみで、仕掛けた例はなかった。科学研究部の山本幸紀氏は「五輪のために、阿部詩のために磨いてきた技と間違いなく言える」と指摘。合宿のため来日し、この技を日本選手相手に試していたといううわさもある。 阿部詩は、国際大会への出場数を制限した影響で五輪ランキングが下がり、シード権を取れずに臨んだ。ノーシードは過去4度の世界選手権でもなく「対策を練る相手を1、2人に絞れず、かなり難しい選択を迫られた」とみる。あと一つ小さな国際大会にでも出ていれば状況が変わった可能性はあり、強化側に見通しの甘さがあったことは否めない。 11月上旬。「すごく落ち込み、前を向けない時期もあったが、今は頑張ろうという気持ちになっている」と語った。来年4月の全日本選抜体重別選手権を経て世界選手権を目指すという。痛恨の記憶を糧に、ロサンゼルス五輪へ向けて仕切り直す。