今では絶対に使えないフレーズも 古いクルマのキャッチコピーを大特集
日本車史上最も珍妙なキャッチコピー
前述した「史上最強のスカイライン」のように明快なキャッチコピーをうたっていたスカイラインが、1985年に登場した次世代の通称“7th”こと7代目(R31)では、一転して「都市工学です。」という分かりにくいフレーズを掲げた。ハイソカーブームをけん引していたトヨタの「マークII」3兄弟に対抗すべくキャラ変を敢行したうえでのことだった。 そのスカイラインの兄弟車だった「ローレル」。生涯を通じてヨーロピアン調とアメリカン調を行ったり来たりで落ち着かなかったが、1984年に実施された4代目(C31)から5代目(C32)への世代交代に際してのキャッチコピーの豹変(ひょうへん)ぶりは見事だった。 当時の日本車としては空力を重視していた4代目のキャッチコピーは「アウトバーンの旋風(かぜ)」。ところがそのプレーンなエアロルックが不評だったため、5代目では仏壇調と揶揄(やゆ)されたほど角張らせて光り物を増やした。そしてアウトバーンを語ったことなどなかったかのように、軽々と大西洋を越えて「ビバリーヒルズの共感 ローレル」とブチ上げたのだった。 1970年代から1980年代にかけての日産車には上級車のミニ版的なモデルがいくつか存在した。前ページで触れたミニスカイラインのラングレー、「サニー」をベースにズバリ車名を入れ込んだ「ローレル スピリット」。そして正面から掲げてはいなかったが、「セドリック」を縮小したようなモデルが1977年に登場した初代「スタンザ」(A10)。2代目「バイオレット」、初代「オースター」と3兄弟を構成したが、最もゴージャスに仕立てられていたのがスタンザだった。 このスタンザのキャッチコピーが強烈だった。「男と女とバラとスタンザ」。そのフレーズのとおり、広告やカタログのビジュアルにはラテン系(?)を思わせるルックスの若い男女をフィーチャー。フレーズ自体の意味不明さもさることながら、ミニセドリック的なクルマのキャラとのマッチングも疑問で、担当したコピーライターが何も思いつかず、ヤケクソで書いたデタラメが通ってしまったような感じすらある。 このコピーの話を編集担当のFくんにしたところ、「バラはどこからきたんですかね?」という。どこからきたのかは不明だが、このコピーのキモが「バラ」なのは間違いない。これがもし「男と女とスタンザ」だったら、なんの引っ掛かりもなく、筆者の記憶にも残らなかった可能性が大。となれば、私が思うに日本車史上最も珍妙なこのキャッチコピーも、立派なプロの業ということになるのだろうか。 (文=沼田 亨/写真=ダイハツ工業、日産自動車、三菱自動車、スズキ、本田技研工業、トヨタ自動車、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)
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