「もっと早くがんを見つけていればよかったんですよね。悔やんでも悔やみきれません」…検診を受けていたら結果は変わった?
「いい状態で長生きすること」
遠隔転移のある進行がんは、「早期発見・早期治療」ができなかった残念な状態と思われがちですが、このイメージも、進行がんの患者さんを苦しめているように思います。 「早期がんであれば希望があるが、進行がんになったら絶望しかない」 「早期がんであれば治療できるのに、進行がんではもう打つ手がない」 という言葉を聞くこともあります。 日々多くの進行がん患者さんを診(み)ている腫瘍内科医としては、とても違和感のある言葉です。 進行がんがあっても、希望があり、目標があり、目標に向かって選択できる治療もたくさんあります。がんを完全にゼロにする「根治」は難しいですが、そもそも、根治というのは、目指すべき究極の目標ではありません。 がんが体の中にあるかどうかよりも、「いい状態で長生きすること」「自分らしく、よりよい時間を過ごすこと」の方が重要で、その目標のためにできることはいろいろとあります。 「早期発見・早期治療」という言葉にとらわれることなく、ラクな気持ちで過ごされることを願っています。
高野 利実 (たかの・としみ)
がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。