個人資産800億円、伝説のサラリーマン投資家が「過去最悪の下げ相場で230億円の買い」を決断できた理由
■「逆張り」をしてきた経験でチャンスを活かす 2020年2月、新型コロナウイルスが蔓延し始めて、相場はジリ安状態になっていました。そして忘れもしない3月19日の午後2時、ついに相場の底が抜けました。パンデミックの恐怖がパニックを引き起こし、バケツに大きな穴が開いたかのように、一気に大量の株の投げ売りが始まったのです。すかさず私は「最大のチャンスがやって来た。これはラッキーだ。買えるだけ買おう」と本能的に動きました。 人類がどんなに悲惨な目にあおうが、相場がそれを織り込んで暴落したら、買いに回るほかないのです。極端な話、小惑星が地球に衝突しそうなときに、ショートして実際に地球が滅んだら意味はないでしょう。人類も滅亡してしまうのですから。でも、超安値でロングしておけば、小惑星の軌道がそれて助かったとき、株価は何倍にもなって大きな儲けをもたらしてくれます。 株価の急落で配当利回りがばかばかしいほど高くなっていたメガバンク株を中心に大型株を買い集めました。ストップ安に張りついていたREIT(不動産投資信託)も数銘柄買いました。実はそのとき、私の頭からはREITの知識がすっぽり抜け落ちていて、何を買ったらいいのか、逆の意味で私のほうもパニックに陥りました。コロナ禍で客足が遠のくホテルが組み込まれていないREITにしなくては、と考えを巡らすのが精一杯でした。 いま改めて振り返ってみると、3月19日に大量買いしたのは、直感ならぬ“ドタ勘”だったかもしれません。ただし、そのドタ勘が正念場で働いてくれたのも、ロングとショートの運用の組み合わせにおいて「逆張り」を常に貫いてきた、数々の経験の積み重ねがあったからなのだと思っています。 それと、17年の夏に私は咽頭がんの手術を受け、声を失っていました。2人の部下の支えもあって運用責任者としての仕事を続けていたものの、早晩どこかで引退を余儀なくされるであろうことを覚悟していました。3月19日の相場の大暴落を目の当たりにし、「自分の人生における最後で最大のチャンスだ。ありがたい」との思いも、頭によぎったことを告白しておきます。 ■パニック売りの市場で数百の買い注文を入れた 24年から新NISAが始まりました。最大1800万円という生涯非課税限度額が設定されるなど、プロの投資家であった私から見ても「やらなきゃ絶対損」という、個人投資家にとっては夢のような制度です。それだけに、生まれて初めて投資の世界に身を投じたり、関心を高めたりする個人の方が増えているようですね。そこで元プロの投資家として、最後にいくつか注意すべき点について触れたいと思います。 一つは、8月5日の日経平均株価暴落のようなことが起きたとき、慌てて売らないことです。この場合、むしろ買いのチャンスだと考えたほうがいい。 たとえば、余裕資金が200万円ある場合、相場が大きく下がったらまず日本株を100万円分買って、さらに下がったら残りの100万円をつぎ込むぐらいの考えでいいのです。市場が合理性を失ってしまう、まれに起きるパニック売りのときなどは日経225株価指数先物や大型株の売買で儲ける瞬間的なチャンスなのです。 今回の株価暴落のとき、ちょうど旅行の移動中で相場を見ていませんでした。17時に自宅に帰り、相場を見たときは、正直驚きはしたものの、その次に考えたのは、「買わなきゃ」でした。けれども、そのときどの銘柄を買っていいのかは全くわかりませんでした。 帰宅してから、19時まで必死に銘柄を探しました。そして22時までに、230億円分の注文を細切れの指値で入力し、注文を終えました。選定銘柄は大型株だと、三井住友フィナンシャルグループやみずほフィナンシャルグループ、三井住友トラスト・ホールディングス、大和証券グループ本社、日立建機に指値を入れました。注文数は数百になりましたが、翌日、買えていたのは、三井住友フィナンシャルグループの105億円分の株のみでした。 個別銘柄に投資するのが面倒な方は、積立型ETF投資をするのが最も合理的でしょう。積立型だと、株価が暴落したときでも、ちゃんと投資することになりますから。