個人資産800億円、伝説のサラリーマン投資家が「過去最悪の下げ相場で230億円の買い」を決断できた理由
■ファンド存続のため30億円の身銭を切った 2003年から外国人が日本株に強気になってきました。そうしたなか、私は割高になった大型株のショートを増やします。しかし、05年に1万2000円前後だった日経平均株価は、07年には1万8000円レベルに達しました。そして、ショートを増やしすぎたタワーK1ファンドは“危険領域”に入り込んでしまったのです。 すると06年1月にライブドアショックが起きて小型株が暴落し、ロングとショートともに損害を受ける最悪の事態に陥ります。そのときは外国人買いで株価がピークに近いことがわかっており、ショートを維持したかったのです。しかし、信用取引の「追おい証しょう」に当たる「マージンコール」を避けるため、それまでのショートの買い戻しを余儀なくされました。結局、06年1月から08年9月のリーマンショックまでに、合計で600億円の実現損失をショートで出してしまいました。 そして、リーマンショックでとどめを刺されます。ファンドのロングポジションには割安だった不動産株が多く含まれており、金融危機であるリーマンショックによって、それら不動産株が壊滅的な打撃を受けました。さらに追い打ちをかけるかのように、ブローカーがマージンの変更を要求してきました。簡単に言うと、ロングポジションの100に対して50のお金を借りてショートのポジションを組んできたのに、「貸金を30に減らしてほしい」と突然言われたのです。交渉で段階的な縮小に変更してもらい、その間にショートをほぼゼロにしました。 そうした過程で、怒濤のような“解約の大波”が押し寄せます。04年から05年にかけて大量に流入した年金基金を中心に、約半分の投資家を失いました。冒頭で触れたように、NAVは05年10月のピークから09年2月のボトムまで72.5%も下落しました。私にとってポジションを減らすことが急務でしたが、流動性の低い小型株のロングポジションを一気に市場で投げれば、暴落して自分の首を絞めます。そこで、投資先の会社に自社株買いを徹底的にお願いしました。 それから私は、自分の銀行預金の約30億円をタワーK1ファンドにぶち込みました。逆境にもかかわらず、私を信じてくれた半分近くの投資家が残っていたからです。実は、それまでも運用責任者として自分の金融資産の約7割をファンドに投じていました。投資家と一緒に運用責任者も金銭的な痛みを伴わないとアンフェアだ、と考えていたからです。もちろん、自分でローンチしたファンドを破綻させるわけにはいきません。残りの金融資産のほとんどをファンドに入れるのは、運用責任者として当然の責務であり、迷いは一切ありませんでした。ただし、妻にどう報告するかについては逡巡しましたが……。 なぜ、浮き沈みの激しい投資業に自分の身を投じたかというと、お金儲けをするためでした。自分の性格や実力を鑑みると、普通のビジネスパーソンの仕事では飽き足らず、満足な人生を送れないだろうと考えていました。気がつくと、野村證券、ゴールドマン・サックス証券をはじめとする金融機関を渡り歩くなかでヘッジファンドと出合い、「自分も運用して、大儲けできるチャンスがあるかもしれない」という希望が見え始めたのです。 そして、1998年にタワーK1ファンドをローンチしたのですが、それから数年後にヘッジファンドの草分け的な大御所であるソロス氏と日本で会う機会を得ます。まずソロス氏は、ヘッジファンドの運用担当者がサラリーマン化してリスク管理に萎縮し、自分にアイデアがあっても力一杯勝負しないことの弊害について指摘しました。そのうえで「おまえはそれがわかっているのか」と問いかけてきて、私は「もちろん」と答えました。 次にソロス氏は「おまえは金儲けがしたいのか? それともパフォーマンスの記録を打ち立てたいのか? どっちだ? この2つは違うものだ。どちらかに決めろ」と言ってきました。正直に言って、当時の私にはこの問いの意味がよく理解できませんでした。パフォーマンスがよければお金持ちになれる、と単純に考えていたからです。 そのソロス氏の問いの意味を自分なりに初めて理解できたのが、リーマンショックでどん底にたたき落とされていたときでした。運用責任者として最も重要なのは、顧客である投資家のためにファンドのパフォーマンスを最優先にすることだと。そして、残ってくれた投資家のために、自分は最高のパフォーマンスを目指すことを誓います。それに専念するため、新規の投資家の資金は一切受け付けないと決めました。 その頃、私は不思議な夢を見ます。私は死んで地獄にいました。閻魔大王の前に連れていかれ、「何か言いたいことはあるか」と聞かれたので、「これが私のポートフォリオです」と言って、保有銘柄のリストを渡しました。すると閻魔大王は「ロング・ショートの運用をしてきたはずなのに、ショートがないじゃないか」と詰問してきます。「まずいなあ」と思って下を向いていると、しばらくリストに目を落とした後に閻魔大王は、「おまえはまだ死ななくていい」と告げてくれたのです。 私はリーマンショックをロングだけ目一杯持って、ショートゼロで堪え切れば、どこかで必ず高いパフォーマンスを上げるチャンスが巡ってくると考えていました。そのような思いが夢という無意識の世界で、閻魔大王とのやり取りの形になって現れたのです。