個人資産800億円、伝説のサラリーマン投資家が「過去最悪の下げ相場で230億円の買い」を決断できた理由
■エコノミストより四季報を信頼する理由 では、投資の判断に必要な情報はどのように集めていったらいいのでしょう。「何か一つ役に立つ優良な情報源を選べ」と言われたら、私は迷わず「東洋経済新報社の『会社四季報』だ」と答えます。私が大学を卒業して野村證券に入社したのは81年でした。それからずっと会社四季報を使い続けています。若い頃は会社四季報の最新版が発行されると、3日間で全ページに目を通していました。私にとって会社四季報は、「人生の伴侶」と言ってもいい存在です。現在は紙版に加えて、オンライン版もあり、私は両方とも使っています。 その紙版の会社四季報を通読していくと、マクロ経済の動きが見えてきます。先にマクロ経済学の怪しさについて触れましたが、GDP(国内総生産)や金利の先行きなどについて、私はエコノミストの話に耳を傾けてきませんでした。よくよく考えてみると、マクロはすべてのミクロを足し合わせたもの。その理屈で、会社四季報で個別の上場会社の動向を積み重ねて捉えていけば、マクロ経済の動きも自ずと見えてくるようになります。 また、関心がある上場企業が属する業界の動向を把握するのにも、紙版の会社四季報はとても便利。たとえば化学業界なら、証券コード4000~4500番までのページを順に見ていきます。そして、個々の業績欄とコメントに目を通すと、化学業界全体の景気状態や、最新の技術革新を含む方向性などが、次第に見えてくるのです。 一方、オンライン版の会社四季報は、主に個別の銘柄を一社一社ピンポイントで調べるのに使用。紙版よりも情報量が豊富なうえに、その会社のホームページへすぐ飛ぶこともできます。個別銘柄のリサーチにおいて、会社のホームページを読み込むことは必須です。 ただし、会社四季報の情報だけで株の売買をすることはありません。割安な小型株のロングをファンドの投資戦略の柱に据え、独自に編み出した「ネットキャッシュ比率」の高い順と、「PER(株価収益率)」の低い順の組み合わせで、全銘柄のスクリーニングを必ず行ってきました。それから得られた表面的に割安な銘柄順に、会社四季報の個々のページに目を通していきます。そして、そのなかで「人気がなく割安だけれども、意外と面白いな」と思った銘柄をホームページで詳しく調べ、さらに会社訪問や決算説明会への出席を重ねていったのです。 そのネットキャッシュ比率のスクリーニングも、オンライン版のベーシック会員以上であれば、「My項目の条件設定」に「[流動資産前期(億円)+投資有価証券前期(億円)×0.7-流動負債前期(億円)-固定負債前期(億円)]÷時価総額(億円)」の条件式を貼りつけるだけで、すぐに結果が出てきます。それとPERの低い順にスクリーニングして両方の指標を組み合わせて使えばいいのです。 ■企業の伸び代を見抜く方法とは いくら割安であっても、その小型株に成長性がなければ、大きなリターンにはなりません。そうした小型株の成長性を見抜くのに、6つのポイントがあると私は考えています。 ①経営者がその会社を成長させる強い意志を持っているか(必要条件) ②社長と目標を共有する優秀な部下がいるか ③同じ業界内の競合に押しつぶされないか ④その会社のコアコンピタンス(強み)は、成長とともにさらに強くなっていくか ⑤成長によって将来のマーケットを先食いし、潜在的マーケットを縮小させていないか ⑥経営者の言動が一致しているか このなかで圧倒的に重要なのが①です。会社を成長させる経営者の共通点は何かというと、「貪欲さ」に尽きます。一般的に創業者は夢を持っていて、その夢の実現に向けて常に貪欲です。逆にサラリーマン経営者は、社長になることがゴールになっていて、就任した暁にはバーンアウトしてしまうことが少なくないようです。サラリーマン社長が会社をさらに成長させるのには、心身ともに健康な40歳代で社長になり、目の上に会長職が存在しているのなら廃止するか権限を縮小させ、ガバナンスは取締役会と株主に委ねる必要があると思っています。 そして、経営者が会社の成長に対する強い意志を持ち、常に貪欲であるかどうかを見抜くのには、直接会って話を聞くのが一番の近道です。そこで会社を訪問したり、決算説明会に自ら足を運んだりしてきたのです。そうやって数多くの経営者と会ってきましたが、ユニークという点で極めつきは、牛丼チェーンの「すき家」を展開するゼンショーホールディングスの小川賢太郎代表取締役会長兼社長です。 タワーK1ファンドをローンチした翌年の99年に同社は株式を上場しました。全く人気がなく、初めて決算説明会に出たら参加者は2人だけで、そのときのPERは5倍でした。いろいろ分析した結果、あまりにも割安なので、アポを取って会社を訪問しました。すると、玄関先にベンチプレスのためのベンチとバーベルが置いてあり、出てきた小川社長の姿を見ると、ホウレンソウを食べた後のポパイのような筋骨隆々の体つきをしていたのです。 東京大学で学生運動に明け暮れたおかげで就職がままならず、牛丼屋で働き始めたものの、一悶着を起こして自ら起業した話に始まり、「牛丼がいかに優れた食べ物か」を、小川社長は一方的に熱弁されました。そして、すき家のメニューの説明終了後、メニューをいただけないか小川社長にお願いすると、「いいけど駅で捨てないでね」と笑いながら言われました。 同社の株価が上がるのは確実だと判断し、すぐに頑張って買いを入れたものの、売り物が少なくて2億円分も買えませんでした。ただし、株価はすぐに何倍にもなってくれたのです。やがて「中期経営計画」の発表会には、50人くらいの投資家が集まるようになりました。そこで示された5年後の利益計画の内容はあまりにも強烈かつ魅力的で、5年後のPERと株価予想までもが明示されていました。とにもかくにも小川社長の個性を反映した、とてもユニークな中期経営計画だったことを、いまでもよく覚えています。