個人資産800億円、伝説のサラリーマン投資家が「過去最悪の下げ相場で230億円の買い」を決断できた理由
■ヘッジファンド業界のレジェンドは大転落した 自戒を込めて、投資で失敗した人の共通点を探ると、大衆に迎合して後追いで同じアイデアに飛びつく投資家に行き着きます。大成功した投資家でも、最終的に後追いして失敗したケースが多々あります。そこで思い出すのが、私が野村證券ニューヨーク支店勤務時代に顧客だった、「タイガー・マネジメント」というヘッジファンドを率いるジュリアン・ロバートソン氏です。 1980年に48歳でタイガー・マネジメントをローンチしたロバートソン氏は、880万ドルの資金で運用を始め、ピーク時の98年半ばには運用資金をおよそ2500倍の約220億ドルにまで膨らませていました。ロバートソン氏は「クォンタム・ファンド」のジョージ・ソロス氏、「スタインハート・パートナーズLP」のマイケル・スタンハート氏と並ぶ、90年代のヘッジファンド業界の“ビッグ3”と称されるレジェンドだったのです。 そのロバートソン氏が得意としていた投資手法が、米国株をはじめ各国の株を個別にリサーチして割安な株を買う一方で、割高な株を空売りする、「ロング・ショート運用」でした。それを象徴する彼の言葉が、「世界で最も優れた200社を見つけて投資し、世界で最も魅力のない200社を見つけて売りに出す」です。そうすることで、相場全体の変動に影響を受けないようにヘッジしつつ、パフォーマンスのアップを狙っていました。 しかし、その大成功で運用資金が集まりすぎたのが、彼の失敗の発端になりました。為替や金利、債券など、自分が得意とする株以外の分野にも手を出したのです。それぞれの分野で最高の人材を集めれば事足りる、と彼は考えていましたが、最後の判断は自分でせざるをえません。 そして、彼はロシアの国債を大量に買ってしまったのです。その結果は裏目に出て、98年8月のロシア国債のデフォルトを迎えます。なんでも、以前、英国の首相だったサッチャー氏から「ロシアはデフォルトしない」と直接聞いて、同国の国債を買ったとか。権威のある人から聞いた話は、信じ込みやすくなるので要注意です。また、情報の内容に変化がないか、常に確認が取れる情報源でないと“急変”に対応できません。所詮、サッチャー氏が情報源では“無理筋”の投資だったのでしょう。タイガー・マネジメントは巨額の損失を被りました。 投資に「決めつけ」は禁物です。ロバートソン氏のように、何かを決めつけたとたん、その後に出てくる有益な情報に意識が向きにくくなるからです。無意識のうちに「聞きたくない、見たくない」と思い、有益であるはずの情報から目を背けてしまうのかもしれません。自分が聞きたくない情報や、確度の低い情報であっても、自分には重要だということが十分にありえます。 ■世間での非常識が投資においては正解になる ビジネスで大成功を収めようとして、他の人と同じことをしていたらまず無理でしょう。いわゆる“世間の常識”の打破にチャレンジしていくことが必要不可欠です。同じように株式投資においても、その他大勢の人と意見やアイデアが同じでは話になりません。 天下のソニーが明日倒産すると信じ込み、今日100株空売りしたとします。もちろん、翌日になってもソニーは倒産しません。とんでもない思い違いをしたわけですが、果たして損をしたのでしょうか? 株価は常に上げ下げし、儲かるのか損をするのかわかりません。ただ、確実に言えることは、「間違って倒産すると思い込んでしまった」という理由では絶対に損をしない、ということです。損をしたとしたら、別の理由で損をしたのです。あなた以外の人が全員正しく、あなた一人が大きな間違いを犯しても、市場はあなたを罰しません。逆にその他の人が全員間違って、あなただけが正しかったとき、市場はあなたに大きく報います。市場は、あなたの意見が少数意見である限りあなたの味方です。 投資のアイデアを探すということは、株価に織り込まれていないアイデアを探すことだ、と私は考えて常に実行してきました。大多数の投資家と違う考えでいようと思うのなら、「常識を疑う」というのが一番楽な方法。ただし、現実的に世の中の常識をすべて疑うと、日々生きていくのに疲れます。「嘘か本当か知らんが、とりあえずそういうことにしといてやろうか」といった態度で生きていくしかありません。そこで時折、「これって本当なの? 皆はそうだと言っているけど怪しいな」と疑問を投げかけてみます。 それこそ、教科書に書かれていることが正しいとは限りません。そこには単なる仮説が記述されているだけで、後になって修正されることもあります。最新のマクロ経済学の教科書を読んでみたのですが、私が学生時代に読んだ教科書の内容とは全く違っていました。もっともらしい常識を「100%正しい」と思うのは有害だ、というのも私の持論です。最新のマクロ経済学だって怪しいものだと思っています。 一見して客観的なニュース、たとえば「今日、北海道で軽乗用車に乗っていた老人2人が衝突事故で死亡」というニュースであっても、記事を書いた記者には「高齢化による運転リスク」ないしは「軽自動車に対する安全性の疑義」など、ことさら強調したい理由が何かあったのかもしれません。すべての情報には「バイアス(先入観)」がかかっていると思ったほうが無難です。 実は投資の世界で、このバイアスはとても重要。大多数の投資家の判断に強いバイアスがかかっていたら、それは投資のチャンスなのです。倒産した日本航空が再上場するとき、旧日本航空株や社債で大損した機関投資家は日本航空を忌み嫌い、きれいなバランスシートになった新生日本航空を正しく評価しようとしませんでした。このバイアスを逆手にとり、タワーK1ファンドはパフォーマンスを上げたのです。