【楽観視できない日本財政の先行き】防衛、少子化、GX、年金… 「新・財源4兄弟」への対応を
小泉純一郎内閣時代の2002年に、「国・地方を合わせたプライマリーバランス(PB)の黒字化」という財政健全化目標が閣議決定された。その後「債務残高対国内総生産(GDP)比の安定的な引き下げ」がストックの目標として加えられたが、両方とも今日まで達成されることはなかった。 【画像】【楽観視できない日本財政の先行き】防衛、少子化、GX、年金… 「新・財源4兄弟」への対応を こうした中、政府は今年7月末に、歳出効率化努力を前提に、25年度PBが黒字化するという試算を公表した。PBがバランスすれば、社会保障など当年度に必要な政策経費を借金に頼らず当年度の税収などで賄えることになる。 このことから、わが国の財政の先行き楽観論が一部に広がっているが、以下の理由から注意が必要だ。 まず、政府のPB試算には、秋に予定されている補正予算が念頭に置かれていない。試算ではPBの黒字幅は1兆円にも満たないので、数兆円規模の大規模な補正予算を編成すれば達成は困難になる。20年度には新型コロナウイルスの経済対策に総額77兆円の補正予算が編成されるなど、過去、政治主導による規模ありきの補正予算が、わが国の財政規律を損なってきたことは周知の事実である。今後はワイズスペンディングが求められる。 より重要なことは、PBの定義には、過去の借金(国債発行)の「利払い費」が含まれていないことだ。したがって、PBが均衡するだけでは、「利払い費」の分だけ債務残高は増え続けるので、財政が健全化したとは言えないのである。 日銀は7月末に、デフレ脱却の糸口が見えたということで政策金利を0.25%程度に引き上げる追加利上げを決め、「金利のある世界」が現実となった。金利が上昇すればそれに伴い政府が負担する国債の利払い費も増加する。先日、財務省が発表した概算要求案では国債の利払い費は10.9兆円(想定金利を今年度の1.9%から2.1%へ引き上げ)と、過去最大だった1991年度以来の大きな金額が計上された。 利払い費は今後も増え続けることが予想されており、先述の政府試算では、2033年度の利払い費は16.5兆円に増加するとされている。そこで、今後債務残高が増えていかないためには、この利払い費相当分のPB黒字を確保・継続していく(財政収支が均衡する)必要がある。 財政再建の話をすると、財政より経済が優先だ、という反論が返ってくる。しかし経済と財政を対立構造に持ち込み優先順位を競うことは間違いである。経済が傾けば財政も傾くことは論を俟たない。財政には、人の命を守る社会保障の整備や災害発生への備えなどの役割があり、経済も財政もどちらも重要である。