【楽観視できない日本財政の先行き】防衛、少子化、GX、年金… 「新・財源4兄弟」への対応を
岸田政権が先送りにした財源3兄弟
岸田文雄首相の退陣が決まり、9月27日の自民党総裁選を経て新たな政権が誕生するが、岸田政権は、財源(あるいは国民の負担)に関して、多くの課題を先送りしており、それへの対応が注目される。財源3兄弟といわれた防衛・少子化・グリーントランスフォーメーション(GX・環境)を見てみよう。 まず防衛費だが、23~27年度の防衛費を43兆円と定め、必要な追加財源を14.6兆円と見込み、(1)税外収入で4.6兆~5兆円強、(2)決算剰余金で3.5兆円程度、(3)歳出改革で3兆円強、(4)残り1兆円を所得税、法人税、たばこ税の増税で賄うということが閣議決定されているが、恒久財源である1兆円強の増税については、いまだその内容や増税時期が決まっていない。さらに、高まる地政学リスクの中で28年度以降も防衛費の維持・増強の必要性を見据えると、恒久的な財源確保に向けた議論はこれ以上先送りできない。 少子化対策については、28年度までに3.6兆円の安定財源の確保が必要とされ、その内訳は歳出改革で1.1兆円、支援金の創設で1兆円、規定予算の活用で1.5兆円となっている。支援金については法制化されたが、1.1兆円の財源を見込んでいる歳出改革にはほとんど手がついていない。 歳出改革の中身を見ると、余裕のある高齢者や金融所得・金融資産を多く保有している者の医療・介護保険料の引き上げなどである。財源がひっ迫する中で、負担の余裕のある者により多くの負担を求めることは方向として間違っていない。実現するには、実施方法(金融所得や資産が多い人からどのように負担増を求めるか)など具体論まで含めて国民的な議論を行い、合意を得る(あるいは納得してもらう)必要がある。29年度以降の財源も課題となる。 GXについては、10年間20兆円規模のGX投資を促進するためのGX経済移行債(つなぎ国債)が発行されているが、その償還財源である炭素に対する賦課金と排出権取引制度については、いまだ法制化に至っておらず、歳出だけが先行している状況だ。 いずれも国民の生命や利益に直結する問題である。新政権は、こうした難題、つまり国民負担の問題に正面から向き合うことを避けてはならない。 財源3兄弟以外に、新たに浮上したのが年金改革である。 今年7月に5年に一度の公的年金の財政検証結果が示された。最も可能性のある前提である「過去30年投影ケース」では、所得代替率(現役男性の平均手取り賃金の何%にあたるか)が57年度は50.4%となっている(24年度は61.2%)。所得代替率の下限である50%は維持しているものの、現在よりも2割ほど減少する。基礎年金だけを見れば、3割近く減少し、物価上昇率で割り戻した実質年金額で見るとマイナス20.1%の低下となっている。自営業者や非正規雇用者など国民年金の加入者は、基礎年金だけを受給するので、この状況を放置すると国民の貧困化が進むことになる。 これを食い止めるため、基礎年金の拠出期間を現行の40年から45年に延長する案が示されたが、政治への配慮から今回の制度改正では見送られることになった。厚生年金の積立金を活用する案もあるが、抵抗が予想され容易ではない。より大きな問題は、基礎年金の半分は国費で賄われており、基礎年金の充実には巨額の国費が必要になることだ。財政検証では、50年度以降1.8兆円から2.6兆円の財源が必要と試算されている。