「SDV」ってなに? ―自動車産業の盛衰をかけた挑戦と求められるマインドの大転換―
ソフトウエアが進化した先に起こること
懸念されるのは新旧さまざまなシステムが混在する点だ。これは自動車に限らず、世の中のITすべてに共通する話で、長く使われているソフトウエアは古い言語で書かれていることが多い。古いことは悪いことではなく、安定稼働実績やコストメリットなどの理由で重宝されていたりもする。つまり部分最適としては正解だ。しかし、新システムと連携するなどの理由で更新を試みると、トラブルが起こることがある。シンプルな構成ならば対処できても、ネットワークが複雑化している環境下では原因特定も容易ではなく、トラブル回避のためにあえて更新しないことを選択するケースもある。部分最適の集積は必ずしも全体最適とはならず、むしろ全体最適と相反する事態も起こり得るというのが現状だ。このジレンマをどうクリアするのか、ITエンジニアの腕の見せ所といえる。 最後に私見を述べると、経済産業省と国土交通省が掲げた取り組み目標「日系シェア3割」を達成するために重要なのは、マインドセットだと思う。短期スコープではバージョン1.0.0が1.0.1になるような堅実な変化なのだが、その先に目指すのは、アップルストアやグーグルプレイでユーザーがアプリをセレクトするように、自由に、柔軟に、クルマをカスタマイズ/アップデートできる世界観の実現だ。安全にかかわる部分はサードパーティーに開放できないとしても、現状のピラミッド型の産業構造はソフトウエアに適さない。多様な価値観の流入を許容することで、次世代と呼ぶにふさわしい新しい価値を備えたモビリティーが生まれるのではないか。 SDVに関しては、OTAのときと同じ文脈でテスラに追いつけ追い越せといった論調も見かけるが、本当の敵はそこではない。私たちはいま大きな価値観の転換を迫られている。 (文=林 愛子/写真=ルノー、本田技研工業、webCG/編集=堀田剛資)
林愛子